第十七話 自らの意思でその手を取る
ちょっと忙しいので予約投稿。
遣霊が成立し、その姿を現したとき、周囲は大別すると二つの反応を示す。
自分よりも有能だと、自己の実力を否定されたと感じ嫌悪を向けるもの。
遣霊の存在を疑い、自己顕示の為に嘘を吐いていると判断し嘲笑うもの。
どちらにせよ否定的、攻撃的な反応である理由は簡単だ。遣霊が成立する条件がそもそも主人である存在が絶望の底で全てを諦めたときなのだから、周囲に理解者がいるはずもない。
「どうして……」
少しだけ早いけれど。……本当は、もう少し待たないといけないけれど。何度も淵でしゃがみこんで、それでも捨てきれない希望を本当に捨ててしまったら、もうこの子は二度と戻れないから。
「たーとぅと?」
無邪気な声で、君に寄り添うよ。
「退いて下さい」
高圧的……と言うには少し語気が冷静すぎるが。アラン職員の来襲に魔術部門の職員は騒めき立っている。医療部門ならいざ知らず、職員でしかないアラン職員が魔術部門に来る理由はない筈だ。
野次馬のようで品がないと思うが、好奇心に負けた同僚達に混ざってアラン職員を測定する。重戦闘区域の職員の内のひとり、さぞや高い数値が出るのだろうと期待半分で測った魔力量は。……期待よりも数倍高い。魔力伝導率、魔術適性、外部魔力親和率…………。どれも超一流、ただの人間が出していい数値が一つもない。予想を遥かに超える数々に周りの同僚達も引いている。最早あそこまでいくと尊敬よりも困惑が勝るのか。
「出雲沙織魔術職員がいるでしょう。会わせてください」
出雲。アラン職員から出た名前に同僚達と顔を見合わせる。今この場に出雲という名字の同僚はいない。先輩方や上官方の中にもいた記憶がないが……そこまで考えた俺の脳裏に、上官達に囲まれた新人の顔がポンと浮かんだ。
「いたか?そんな奴」
「あー確か……ほらアレだよ、上官達が囲い込んでた」
「俺らからしたら天上の相手じゃねえか。何でまたそんなお偉いさんとの面会を?」
「職員の中ではお偉いさんだからじゃないのか?」
「あんだけ優秀ならまぁ……?」
全てが全て実力主義の世界ではないだろうが、あそこまで突出しているのなら多少それに見合った地位も与えられるだろう。あんなのを放置するのはヒュリスティックの沽券に関わる。
「アランさん」
ス、と後ろから知らない職員がアラン職員へと耳打ちする。……何か凄く上司と部下の仕草。一端の魔術職員でしかない俺達にはその光景があんまりにも憧れのワンシーン過ぎる。良いなあの職員。
「俺も部下欲しー……」
「いやいや、オレはあんな上司が欲しい」
「良いよねあの影ポジション……無名だけど一番信頼されるポジじゃん」
「部下だけど優秀だと尚良し」
「分かる。上司が飛び抜けてるから霞むけど部下も充分上司になれる奴」
「憧れるぅ~」
魔術部門においての実力主義ってのはつまり才能第一ってことだ。家門やら推薦やらでやってくる自己肯定爆高人類とは違って、俺達一般魔術職員はミソッカスでも魔術適性があったが故に魔術部門行きが決定した哀れな一般人類。だからなのか英雄への憧れってのは人一倍強い。
「なぁ」
「うぇ!?」
「ヒィ!?」
背後からの声に俺と俺の隣にいた同僚が小さく叫び声を上げた。凄い、何故か憧れが目の前にいる。ほんのり甘い匂いするんだけど。
「さっき出雲の話してた。先輩方、居場所知ってますか?」
可愛いなこの憧れ。俺達にすら敬意を払ってくれるの、やっぱ有能な存在ってのは懐が大きいぜ。
「あー……それなら多分あの扉の奥……魔術抵抗値がB評価以上なら辿り着けるぞ」
「魔術抵抗値?」
「どんだけ素の状態で魔術にかからないかの値だよ」
「因みに一般人類はDだぜ?」
「オレ達の平均はCだぞ!」
よっぽど憧れの存在と話したいのか勝手に口出す奴が山程発生中。ええい困っちゃうだろ解散!と言いたいところだが、アラン職員と会話してる先輩とかにバレたら怒られそうなので全員巻き込んでおくに限る。
「あーソイツダメだ、B-」
「え、-値って損失理論値じゃないのかよ」
「だからソイツどっかで魔術による束縛受けたんだろ」
俺達の会話の意味が分からないのか、声を発した奴の方をきょろきょろと見て軽く首を傾げている職員。小動物みたいだな、そういえば職員の中でも強い存在は遣霊っていう子供みたいな存在を連れてるんだっけ。もしかしてこの子遣霊?
「アランさんなら、行けるんですか?」
「行ける行ける。行けるよな?」
「凄いぜアラン職員、S--って出てる」
「何でだよ。そこまで行くと一段階落ちるだろ数値」
「+値は祝福理論値だぜ?」
「シングルプラスは祝福実数値ですぅー!」
絶妙に腹立つ顔してたから取り敢えず目潰ししといた。眼鏡に阻まれたけど。
「アランさん。先へ」
「……少々、骨が折れますよ」
いつの間にかアラン職員の傍に戻っていた職員くんが先を促す。骨が折れるっていうの、妨害があると思われてます?何とはなしに同僚達と視線が絡む、否定、否定、煽り、否定…………取り敢えず眼鏡には目潰しをかましておいて、無言でじゃんけん。負けたのは俺、チクショウ!!
「えー。アラン職員、我々一般魔術職員は、貴方の指示に従いますよ?」
「────おや、珍しい」
やー視線が痛いね!眼鏡がしれっと先輩の口封じしてるから堂々と宣言させてもらう!後の事は知らん!
「ただ、まぁアラン職員殿も多少分かってもらえると思いますが、先輩方……とか、上官方への対抗策がないです。助けてください」
「締まらねぇ~」
「うるせー」
野次を飛ばしつつも全員姿勢だけは良くして言葉を待つ。俺達は所詮魔術部門の最低辺、実力がない代わりに団結力だけはあるんだぞ。
「アランさん。俺残ります。出雲のところに行く扉の奥、俺じゃ行けないらしいので」
「分かりました。……許可は必要ですか?」
「いいえ。その代わりに、一振りの剣を」
え、何あれカッコいい……!虚空に向かって腕振ったと思ったら中途半端な長さの剣が現れる。まるで絵画のワンシーン、伝説の目撃者になった気分だ。剣を受け取った職員くんを置いてアラン職員は扉へと進む。
「ロイド・ルーサー魔術職員」
「は、はい!」
扉を開ける直前、不意に振り返ったアラン職員がフルネームで名前を呼んできたから思わず声が裏返った。マジかよ、俺達の事もちゃんと把握してるの?
「貴方達の勇気ある行動に敬意を表して。────必ず、この恩は返しましょう」
……良く分かんないけど、俺達の退屈な日常は崩れ去るらしい。
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