明ける前の密談
ひとつ、息を吐いて腕の中にいる小動物を下す。とてて、と一目散に主人の元へ向かうと、甘えるように添えられた手に頬をすりよせた。
「どうするの」
「……強さによる。遣霊を連れている程度なら別に……”スペース”の方が余程安全だろ」
取り繕うことを止めたアランの声音は無機質だ。腕の中にいるちっさいのはそんなアランに怯えたりはしない。当然だろう、このちんちくりんはアランの心を守るための存在なんだから。
「お前がいいなら止めないけど」
「……青藍なの、珍しいね」
アランの視線が向く。光を返さない薄紫は長めの前髪の奥でそれでも強く意思だけを宿している。昔より沈んで、かつてのように秘められた激情を俺は、どうすればいいんだろう。
「別に。ただ……珍しい、とは思っただけ」
「珍しい?」
「眠ってるときに、特段予兆なく成立したところ」
「……それは、おかしいだろ」
遣霊は、主人である存在の精神が限界の淵に達して尚救いを見出だせないときに初めて現れる。深い絶望を経て手放そうとしたもの、無理を通して壊れたもの。どんな理由があれど、遣霊という存在は一種の防衛装置だ。だからこそ皇志葉の存在は異質に映る。
「おかしいよ。お前ですら予兆はあった、俺ですら気付かなかった。あの遣霊は、まるで初めからいたかのように眠ってたよ」
「…………」
アランの指がみうを撫でる。眠たいながらに触れ合うことを享受しているみうが、ふにゃふにゃの笑みと川のせせらぎのような笑い声をあげている。考え事をするときに手元にあるものを指先で撫でる癖は、元々コイツじゃなかったのに。
「みうの……遣霊達と惹きあう可能性もある。……個別での実力測定が終わったら、一度直接みようとは思う」
言質はついぞとれなかった。ある意味当然というべきか、アラン達が遣霊と出会ったのはまだ年端も行かない頃だから。あの日からずっと、この兄弟は取り繕うことで自己を保っている。
「ところで……遣霊が小人サイズというのは、有り得ることなのか?」
「え、知らない。実例がいるんだから有り得るんだろうけど………小さくないと入江が生きれなかったんじゃないの」
ブランケットの中に隠れているとき、やけに慣れが見えた。結局皇と会って出て来てしまったけれど、皇に対して遣霊達が反応を示す可能性がある以上、多分皇じゃなければバレなかったのだ。
「小さい頃に遣霊と出会って……ある程度周知されてるはずのヒュリスティックですら遣霊のことを嘲るやつがいるのに、一般区画でどう扱われるのかなんて」
「それもそうか」
俺もアランも厳密には一般区画がどんな場所かは知らないけど、新人達をみるかぎり軽戦闘区域みたいだけどちょっと違う場所っていう認識をしている。でも問題の発生頻度は中戦闘区域くらい多くて、非武装区域だからか暴力も頻発する場所。ただの幼子と認識されて扱われるだけならまだマシかもしれない、遣霊に人権がないだなんてほざいた奴は結局どうしたんだったか。
「朝、説明した後俺は一度席を外す。諸々の感想を聞きたい、ルコンを呼んでほしいんだが」
「コンちゃんで良いの?」
「あぁ。仮に絡まれても、直接的な被害が出ない」
「人的被害多そぉ……良いけどね」




