第十話 困惑の邂逅
「おすな」
「……え?」
振り返っても背後に人はいない。もう一度俺に小さな指突き付けて同じ単語を喋った小さな……認めよう、多分見知らぬ遣霊が目の前にいる。
「砂……?」
「すな!」
……ここ重戦闘区域じゃないんだけどな。どうして俺が一人のときに限って単独行動してる遣霊とぶち当たるんだ……。取り敢えずそっと突き付けられている人差し指を隠す。特段抵抗はされなかったが、何故か反射のように手がパーになった。おい本人も首傾げるんじゃない。
「どこの遣霊……支部の職員とかか?」
「んん!」
首を横に振ってるし違うんだろう……困ったな、アランさんは先に医療部門の方に行ってて俺は待機を指示されてたんだが……流石に合流した方がいいだろうか。重戦闘区域の職員は三人しかいないと言っていて、その全員の遣霊を知ってるし…………そう考えるとすももってどういう立場なんだろう。
「おなす?」
「茄子?」
揃って首を傾ける。せめて青藍さんには残ってもらった方が良かったのかもしれない……いや、見ず知らずの職員にこの状況を見られていないだけマシというべきか。
「お前の主人はどこにいるんだ?」
「んー?ん!?ななすな!?」
「……もしかして、今迷子に気付いたのか……?」
おい勘弁してくれ、そんな天然は求めてない。
「皇さん、お待たせしまし、た…………」
「アランさん」
「……凄いですね貴方、遣霊引き寄せ過ぎでは?」
アランさんの感嘆が混じった感想に俺は全力で首を振る。別に俺が何かしてるわけじゃないし、寧ろ困ってるのだ。割と切実に。あと気配から察するにスミレが暴れてるみたいなんだが、青藍さんを困らせるんじゃない。
膝をついて目線を合わせたアランさんに、謎の遣霊は躊躇なく手を伸ばす。ついでに例の謎発言……「おすな!」と言っておくのも忘れない。初対面の相手に絶対言うのか?
「先程、医療部門の方で遣霊が行方不明……もとい、迷子だと報告がありましてね?」
「こいつですか」
「まぁ間違いなく」
「なす?」
首を傾けた遣霊と俺を促して、アランさんは歩き出す。歩幅が合わないだろうと一言断ってから遣霊を抱えてついていけば、アランさん曰く正面からだと騒ぎになるから、と言って……多分裏口と思しき場所の扉を開けた。
「藍沢先生、連れてきました。それと……」
「おなす!」
「……ああ、聞こえた」
手招きされたからそっと顔を覗かせる。ベージュ色の髪を高い位置で一纏めにした白衣の……多分お医者さんが、俺を見て眉を上げた。
「……皇?」
「え?はい」
「知り合いなんですか?」
「いえ」
「まぁ……知り合いではないな」
あの反応を見せておいて知り合いじゃないというのは無理があるような気はするけれど、少なくとも俺はこの人を知らない。アランさんも困惑するように視線を向けている。
「ウォルクがな。一度治療のために連れてきたんだよ」
「ウォルクさんが?」
「師匠のこと知ってるんですか?」
「知ってるも何も、ここで一時期傭兵業やってたぞアイツ」
初耳なんだが。師匠……ウォルク・皇はいつだって自分のことをフリーの傭兵だと言っていた。俺がヒュリスティックに行くと言ったときも、特に変わった反応はしてなかったのだが。
「なぁす!」
「誰がおたんこなすだ誰が。宇月呼ぶぞ」
「おすな!?」
会話についていけず飽きたのか、俺の腕の中から飛び出した遣霊が師匠の知り合いらしい人に手を向ければ、慣れたようにあしらわれている。……今の発言に出た宇月、とは誰だろう、遣霊の関係者ということで良いんだろうか。
「あー……本題含めて少し長くなるな。宇月も呼んだ上で説明する。指示出してくるから待ってろ」
「はい」
「ななな!」
……喋れる単語が近いからか、さっきからレンの面影がちらつくな…………。
面白かったらブクマや高評価お願いします。喜びます。




