第八話 束の間の静けさ
意識が浮かぶ感覚がある。何も感じず、何も遺さずに肉体と意識は合致した。何とはなしに身体の上に手を滑らせる、……何もない。
「スミレ……?」
いたらいたで寝苦しいけど、いないとそれはそれで気になってしまう。どうにかして視界を確保しようと未だ自身を覆う薄膜と格闘していれば、小さな温もりがふわりと手に触れる。
「────」
宥めるような、慈しむような。その姿を視界に納めたくて、その表情を窺いたくて、……でも、瞼の上に覆い被さってくる温もりがその全てを溶かしていく。
「──。──────…………」
じわじわと籠る熱で目が覚める。少し視線を向ければいつも通りまんまるな頭が視界に入ってきた。毎回思うがうつぶせで寝苦しくはないのかコイツ。寝返りついでに横に転がせば、離れないとばかりに服にしわを刻まれた。まさかこいつ狸寝入りか。
「スミレ、暑い」
「(ふるふる)」
俺は暑くないと言わんばかりに首を横に振られたが、布団を適当にめくればほう、と息をついた。やっぱ暑いんじゃないか。
「お目覚めですか」
「みゅ」
「アランさん、みう」
上半身を起こせばそのままで良いと制止されてしまった。スミレは胴体にしがみつくのを諦めて膝上辺りに乗り上げる。そういえばイデアはどこだろう。
「お疲れ様です志葉さん。怪異は無事倒されましたよ」
「それなら良かった……です?」
正直記憶がないから実感がわかない。俺のそんな曖昧な表情に気付いたのか、アランさんは一言断ってからベッドの傍にあった椅子へと腰掛ける。
「ひとまず結論だけ。今回の騒動に関しては放置、長期化した場合の被害規模を憂慮した上で不問とするそうです。どうやら翌日に例の職員が上層部と接触する予定だったようで。特段評価はしないが処分もなし、ということでしょう」
「なるほど……」
「みゅーみ?」
「はい。どうやら今回のことで志葉さんが俺の部下である……というよりは護衛?ですかね……とにかく”皇志葉はアラン・アンシエントの関係者である”という認識がなされたそうです」
「部下ですけど」
「はい部下です。護衛というのは多分志葉さんだけで事態を解決させたからではないかと」
俺はただアランさんの合図で特性を起動させただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。何とはなしに膝上のもしゃもしゃを撫で回せば、手の動きに合わせて左右に蠢いた。……なんだこいつ、面白いな。
「……交渉担当と、実行担当……?」
「そういう見方も出来ますね。護衛という噂はどこかで自然消滅してくれれば楽なんですけど……まぁ、流石に職員に護衛なんて有り得ないという常識はあるでしょう」
職員は寧ろ護衛になる側、それは俺も思っている。職員が職員を護衛する意味があるとしたら……あるだろうか、そんな事例。
「これで任務は終了……と、言いたいところですが、残念なことにまだ原因が判明していないんですよね」
「何で怪異があの職員に憑依していたか……と、いうことですか?」
「はい。かの職員は言い方こそ悪いですけど、現場に出るような性格ではありませんし。かといってあれほどの被害をもたらすまでに至るとは……」
「みゅ」
アランさんの指がみうを撫でる。ふにゃふにゃと何やら声が漏れ出ているが気にならないらしい。スミレもそうだが、撫でまわされると変な挙動をするんだろうか。面白いから良いけど。
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