第六話 一歩前へ、貴方の傍へ
「時間がないので手短に。――――特性の使用を許可制にします」
「はい?」
おかしいな、さっきまで憑依した死霊型の対処法を模索していた筈なんだが。脈絡がない提案、というか宣言に思わず気の抜けた声が出た。アランさんはいつも通りの表情で言葉を続ける。
「いえ、簡単なことです。あの怪異は宿主が戦闘不能状態に陥ると接触している存在に乗り移る。本来ならば遠距離から飛び道具で対応することで憑依を防ぐのですが、変異の過程で遠距離攻撃を無効化するようになったので打つ手がない。ここまでが前提です」
「はい」
「そしてここからが本題なんですが……怪異にも、乗り移る条件というのが存在するんですよ」
「乗り移る条件?」
アランさんが何かを理解した上で相手を一時的に気絶させているのは知っていた。完全な戦闘不能状態にしないことで近接攻撃にも関わらず憑依を阻止したことも。器用だな、とは思っていたけれどまさかあの一撃だけで解決法を見出しているとは思っていなかったので少しだけ首を傾けてしまう。
「精神が正常である、宿主と接触している、生命体である……意識レベルが、自己が有する支配権限よりも下である」
支配権限。聞いたことのない単語だ。それと特性の使用になんの因果関係が……そこまで考えてふと思い出す。俺の特性は、俺の意思を考慮なんてしていたか?
「俺の……特性は、その支配権限より上、なんですか?」
「はい。現段階で判明している皇さんの特性は、自らに強力な強化、防護を行い殲滅するという至ってシンプルなものです。シンプルが故に、干渉を受け辛く存在強度も高い」
「そこに許可制がつく意味は……?」
「今後を見据えた判断、ですかね」
この先、似たような事例が起きないとも限らない、ならば許可制という分かりやすいルールを決めて指示をスムーズにするということか。アランさんは俺が我を忘れて攻撃しても確実に制圧出来るだけの実力があるので、アランさんがいる状況下でのみの使用許可、と言い換えれば成程合理的かもしれない。
「……なら、切り替えるための変化がほしいです」
「……変化?」
「はい。指示を行う前の……予兆、みたいな」
「……成程」
ふむ、と顎に手を当てたアランさんの視線が宙をよぎる。動作でも気配でも、取り敢えず分かれば何でも良いと思って提案したのだが、アランさんの結論は意外なところから飛んできた。
「では、許可を出すときは志葉と呼びましょう」
「えっ」
「問題ですか?」
「あ、いえ……てっきり、何か合図でも決めるのかと」
「悟らせるのは悪手ですので。どうせならそうと分からない方がいい」
「ああ、なるほど」
名前ならばいつ呼んでも不自然ではない、確かに合理的だ。今まで「皇さん」としか呼ばれていなかったので、呼び捨てすっ飛ばして下の名前で呼ばれたのにはちょっと驚いたが。
「……なんか、名前呼ばれたの久し振りな感じする……」
「……あぁ、そうかもしれませんね」
別に、仕事上の付き合いである相手と特別親しくなりたいと思っている訳ではないが、ここに来る前までは皇と呼ばれる方が珍しかったから知らず知らずの内に線を引いていたのかもしれない。
「重戦闘区域外では厳しいですが……重戦闘区域内では、志葉さんと呼びましょうか?」
「迷惑じゃないなら……」
「名前の呼び方で迷惑だとは思いませんよ。それに、名前というのは個体証明以外にも重要な役割を持つのでしょう?なら、出来るだけ本人の意に沿おうと思います」
ほんのりと口角を上げたアランさんに、俺も同意を込めて口角を上げた。
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