第四話 防波堤なれど一枚岩ではなく
「……成程、貴重な資料ありがとうございます」
「いえ……」
アランさんと合流して、一旦重戦闘区域にほど近い……アランさん曰く、特殊な部屋で情報共有を行う。どういう意味合いでの特殊なのか、アランさんは明言しなかったけれど部屋に入ったとき妙な違和感というか、空気が明らかに変わっていた。別の位相……とまではいかないが、普通には入室出来ないと言われても頷けるような秘匿具合である。
「それで、……この資料を見た限り、そこまで被害はなさそうですが……」
「本体と思われる怪異はいなかったですね」
「ああはい。その件に関しては解決しています。……少し、厄介な相手に憑依しているのを確認しました」
厄介な相手。アランさんが把握して俺が把握していないということは、それなりに上の地位というか、管理職側の相手に憑依しているとみて良いんだろうか。リストに名前があった相手は殆ど確認していて、確認出来ていないのは役職持ちの一部だったと認識している。
「担当区域が違うとはいえ、上層部の関係者は面倒なんですよね……憑依されたのはあちらの責任なので多少の弁明は許されると思いますけど」
「上……層、部?」
「はい。この収容……いえ、ヒュリスティックを運営している方々の総称、といいますか……」
どうやらアランさんやリアムさんはその上層部なる存在ではないらしい。職員と上層部は似て非なる存在なんだろうか、関係者は面倒、と言っている辺り友好な関係ではなさそうだけれど。
思案するようにアランさんは首を傾ける。知らない相手が勝手に入室はしてこないから、と青藍さんが自由にしたためみうも膝上で一緒に首を傾けていた。スミレは俺にしがみついて相変わらずうとうとと船を漕いでいる。
「関係者……とはいえ、青藍は顔を絶対に見せないこと」
「うへぇ」
「しょうがないだろ、半分……くらいは俺のせいでもあるけど、それにしたってお前の存在は希少なんだぞ」
「別に希少とか言われても嬉しくないし……大体、本気出せばお前壊せるじゃん」
「……そんなことない」
壊せる、希少。……特性辺りの話だろうか。会話しているアランさんの表情が暗く思えて問い掛けるのを躊躇ってしまう、その間に話題は怪異の対処について移ってしまった。
「本体を倒してしまえば眷属も自動的に消滅するので、本来はそちらのほうが効率的なんですが……いや、眷属を先に減らすとバレる可能性が高いか……?」
「気付かれて本体に逃げられるのが一番厄介ということですか」
「そうですね。上層部の関係者に憑依している以上、それこそ上層部の方に入り込まれたらこちらからは手が出せなくなる可能性もあります」
「逆に粛清チャンスじゃない?」
「青藍は少し黙っていようか」
青藍さんは上層部のことがあまり好きではなさそうだ。当然の様に粛清というワードを出してくる辺りに躊躇いがなさすぎる。みうも小さく何か喋っているようだが、アランさんは小声で会話しているので内容までは分からない。
「……一番の懸念事項は何を無効化するのか、ですかね。そのまま仕留められる相手なら偶然を装って適当に幽撃、ないし重幽撃を当ててしまえばいいんですけれど」
「あぁ……一撃を外してしまうと、本当に言い逃れが出来なくなる……」
「はい。拘束するのもリスクと言いますか、ある程度準備してからじゃないとこちらに難癖をつけられるだけですからね」
意外と怪異の被害よりも体裁を気にする組織なんだな、とぼんやり思考する。怪異をせき止める防波堤としての役割があるが故にある程度は実力主義の世界だろうと思っていたのだけど、そんなのは所詮幻想だったらしい。
「……皇さんは投擲に関してはどれほどの精度がありますか?」
「投擲……ナイフくらいなら、投げれます」
「なら……打撃無効相手にも効きますね。流石に幽撃無効の死霊型というのは見たことありませんし……それで事足りるとは思うんですけど」
「あとあるとしたらなんだろ、爆発?」
「爆発に幽撃を乗せるのは製作段階じゃないといけないから時間がかかるんだよな……」
「お前出来るじゃん」
「周囲を火の海にする気か?」
「みゅ」
「みう、頼むからそこに同意はしないでくれ……」
中々物騒な提案に同意を示したらしい。青藍さんにはそこそこ淡々とした物言いをするアランさんだが、みうに対してはやや困ったように眉を下げて窘めるに留めている。……なんというか、スミレが無言だから忘れがちだが、遣霊はその見た目に反して普通に知能が高いというか、作戦会議に参加出来るだけの能力があるらしい。本当に、スミレが一切合切興味なしと言わんばかりに寝ているから失念していたが、本当に。
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