第二話 腹の裡の探り合い
「これは……?」
「あまり近付かないように。死霊型の怪異が憑依しているので」
「憑依……」
死霊型の怪異とはいえ憑依が出来るということはそれなりに強いんだろう。憑依型は他者を媒介にする都合上あまり数が多くない。その代わりに一人発生すると被害が加速度的に広がる。一般区画に発生させてはいけない存在の筆頭だ。
「よく……隔離出来ましたね?」
「ええ。私としても意外……いえ」
す、とアランさんが目を細める。何か違和感を覚えたんだろう、アランさんの隣でじっと気配を探る。怪異であることに疑いはない、職員に異変もないが……肌がひりつくような敵意を感じられない。
「……憑依出来るほどの怪異にしては……弱くないですか」
「そうですね。恐らくこれは眷属の類でしょう」
「眷属……そうなると、本体はまだ潜伏を?」
「確実にいると思います。……最近は眷属を従えるほど成長する怪異は少なくなってきたはずなんですが……」
アランさんはそう言いながら遠距離で幽撃を撃ち込む。パン、という破裂音がして、職員に憑依していた怪異が弾け飛んだ。
「……破裂音?」
「…………抵抗がありました。何らかの耐性があると見ていいかと」
「眷属時点で耐性があったということは、本体は無効化してもおかしくない……」
「はい」
何に対する耐性なのかは分からないが、少し困ったことになった。憑依されている職員に被害を与えず穏便に対処する方法が遠距離からの打撃属性を有する幽撃なので、打撃無効などを有していた場合少し作戦を練る必要がある。
「青藍、皇さんと共に行動を」
「ん。この職員は?」
「他の職員に医務室へ連れていってもらう。皇さん、まずは状況を把握しましょう。どれほど掌握されているのかを把握したい」
「分かりました」
アランさんが話しながら端末を操作する。ポン、と画面が通知を知らせてきたので確認すれば、名前と顔写真が乗った一覧が送られてきていた。
「タブレットに職員のリストを送りました。怪異に気付かれたくはないので私は一先ず監査の体をとります。皇さんも、あくまでそのスタンスを崩しませんよう」
「はい」
地下から上へと戻り、アランさんは職員を医務室に連れていってもらうために別行動をする。俺はタブレットから職員のリストを呼び出し、「新人職員が名前と顔を一致させるためにリストを所持している」という振る舞いを心がける。実際誰が誰かなんて分かりはしない、気配を探って違和感があれば指でなぞり、ついでに敵意の強さも体感で記入しておく。勿論見られてもいいように記入している文字などは見えないようにしているけれど。
「あれが噂の……」
「どうせ一時的……」
「…………悪魔の部…………」
騒がしいな、と思う。なんというか向けられる言葉が刺々しい。指向性を持った囁きというのは肌を撫でるような、周囲にまとわりつくような粘性があるから好きではない。……重戦闘区域では騒がしさのベクトルが鳴き声というか、主にうぱーの歓声だった。あれは指向性どころか意味を内包してすらいないので木々のさざめきと同じ、環境音みたいなものである。
『多分君、あそこに行ったら潰されてた』
シンさんの言葉がふと蘇る。あれは軽戦闘区域を指していたはずだけど、多分中戦闘区域でも変わらないんだろうな、という漠然とした確信があった。今やや不快感を覚えながらも平然としていられるのは見えずともスミレの気配が割と近くにあるからである。俺よりも俺のことを案じてくれているというだけで、なんとなく心が軽くなるのだ。
「……あれ?」
怪異とは違う、されど何かが引っ掛かってすれ違い様に目で追った。まるで幼い子供のような、職員というには少し気配がおかしかったような。リストに目を落としてみても一瞬だったせいかそれらしき人物が分からない。……誰だったんだろう、気にはなったが今回の怪異には関係無いだろうからと思考から締め出した。
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