閑話その2 笑顔を食んで、糧にさせて・後編
「何をしてるんですか?」
「アランじゃん。何してるの」
「質問を質問で返すな」
「み」
ひょっこりと現れたアランに思わず問えば、至極真っ当な返事が返ってきた。ぺこりと会釈した皇に同じく頭を下げることで挨拶をしたアランは、みうと一緒に席に着く。興味を持ってたのは本当だったらしい。
「スミレがあんまり食べないっていう話と、俺もそんなに食べないって話してました」
「ああ、食事の話ですか」
流石理解が早い。膝上のみうはスミレの頬についてた食べかすをハンカチで拭ってる。相変わらず面倒見良いよね。
「……正直、偏食は割と遣霊の中だといますよね。小食はあまり見ませんが」
「見ないんですか」
「見ませんね。少なくとも私が知る限りは」
あぁコイツまだ一人称「私」なんだ……俺とかより余程線引いてるじゃん。敬語も取れてないし。てっきりある程度の信頼を置いてるもんだと思ってたんだけどな、全然そんなことなかったよ。
「みーみ?」
「え?ああ……確かに。スミレさんは加工品に関しても食べないんですか?」
「加工品」
「葡萄で出来たジュースやお菓子のことです」
「どう……なんだ?」
皇が問うようにスミレへと視線を向ければ、スミレは特に変化のない真顔で首を傾ける。興味がないのか、そもそもそういうのを試したことはあるのか。
「今……飴なら持ってますよ」
アランから皇へと紫色の小さな飴玉が渡され、皇がぺりぺりと包装を剥がす。その間にアランはもう一個飴玉を取り出してみうの口に入れていた。ころころと音を鳴らしているのをアランは割と気に入っていて、本人は食べないのに常に飴玉だけは携帯している。俺にも渡してきたから大人しく受け取って舐める、甘い。
「ほら」
「……」
飴玉を口元に寄せられたスミレが、じっと飴玉を見てからぱちくりと目を瞬かせる。そして小さな手で皇の手を掴むと、そのまま口に含むことなくはむはむと舐め始めた。
「あ、食べるんですね」
「食べるんですね」
皇も意外そうな顔してるの、絶対試したことないんだろうな……。そもそもそんなに食べないからねスミレが。本人も食事に興味なさそうだし。
「ん~」
「ゆっくり食べて良いですよ」
「んん!」
「え、あぁ……スミレさんにとっては飴玉が大きすぎる、と?」
「こいつどんだけ口の中小さいんだ……」
「……(ふんす)」
心なしかどや顔しているスミレ。……皇は少し呆れつつも飴玉をかみ砕いて欠片をスミレの口に入れる。むぐむぐと少しの間口を動かしていたが、やがてスミレの方からもころころという軽い音が聞こえてきた。
「食べるのか……」
「他にも持ってますよ。ほら」
テーブルに色とりどりの球体が並べられる。フルーツ系からドリンク系の味まで様々。予想よりいっぱい持ってたのか、みうとスミレも興味津々で身を乗り出してラインナップを眺めている。
「んー」
みうが気になったのか味や色別に飴を並べてる。こういう細かいの好きだよねみう。スミレはあんまり興味がないのか、並べられた一覧をいっこずつ見てるみたいだけど。
「……!」
「ん……?それ葡萄じゃないぞ」
「マスカット味だね」
「食べれそうですか?」
「(こくこく)」
きゅ、と握り締めたスミレはどことなく嬉しそうに見える。……そういえばリアムも割と好き好んで葡萄というか、ブルーベリーの乳飲料とか飲んでるよね。
「マスカット味とぶどう味の飴、いくつか渡しましょうか?」
「(こくこくこくこく)」
「分かりました。必要になったらいつでも言ってください。他の味も沢山あるので」
「(ぐっ)」
「ありがとうございます」
両手でぐっじょぶを見せたスミレが嬉しそうなのは伝わったのか、皇の表情がちょっとだけ緩む。
「葡萄以外も食べれたんだな、お前」
「マスカットも葡萄の一種だけどね」
確か品種が違うんだっけか。細かい違いをつらつらとジャックが喋ってたような気がするけど、あの場にいたやつ全員酔っ払ってたから多分分かんない。
「コンちゃんに頼んでお菓子とか用意してもらってみる?」
「そんなに食べないから申し訳ない……」
「じゃあうぱーを呼びましょう。甘味なら全部食べます」
「言いたいことは分かるけどうぱーに対する信頼がなんかずれてる」
何ならうぱー、呼ばなくても来そうじゃん、とは思ったけど言わなかった。口に出したら今来そうだったし。
「その内定期調査で嗜好品申請書来るから、それに書けば受理されるよ」
「あれどこの管轄なのか俺も知らないんだが」
「極秘ルートで直接商人に受注してるからね」
だって元々はジャックの管轄だもの。今は俺とシン経由でジャックに渡して、馴染みの商人から卸してもらってる。一回ジャックを経由するのは、単純に俺とシンじゃ何の目的で申請してるのか分かんないものとかあるから。中戦闘区域以下は普通に申請すれば受理されるよ、重戦闘区域にはその窓口ないけどね、ぺっ。
「……抱き枕って嗜好品ですかね」
「睡眠に携わる部分なので場合によっては必需品ですけど……?」
「スミレがほぼ毎回俺の上に乗ってくるんで、夜の任務とかでいないとき抱き枕あった方がいいのかな、と」
「ええと……一応必需品として申請する場合はシンプルなものになりますが、拘りたいのなら嗜好品の方で申請すれば良いかと」
「分かりました」
スミレ、お前の保護者ポンコツだぞ。みうの視線もどこか生温い……というか同情した色を乗せてるし。多分純粋に甘えてるだけだと思うんだけどなぁ、皇いなかったら普通に寝ると思うよスミレ。皇なりの愛情表現なのかもしれないけど。
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