第十一話 恐怖と狂気・後編
「対人……慣れてますね」
「シゴトガラナ」
人型の怪異を相手にしているから、では流石に慣れが強すぎる。恐らくはそのままの意味だろう。流石にこんな血の気の多い人間が多い場所で何もないというのは無理がある。
視線と筋肉の動きをちぐはぐに。どちらをとってもブラフ、どちらをとったところで後出しじゃんけんならば勝てると言わんばかりにアランさんは二択を叩きつける。どちらも選ばないという選択肢は取れない、皇は妨害と防御を同時に選択肢し最小限の被害で乗り越えたが、追撃までは許されず曖昧な距離を取る。
「……」
アランさんはじっと、見定めるような視線をもって皇の一挙一動に対応する。皇は決して弱くないし、端から見てる俺でさえ勝てるかと言われればかなり厳しいと言わざるを得ないのに、アランさんは涼しい顔して受け身に回っている。これが実力の差、ということだろうか。
「アランさん……これ見る限り、相当強いのでは…………?」
「ツヨイヨ。キョウダイドッチモツヨイ」
兄弟。明言されてはいないがあやめさんが以前アランさんとリアムさんを指して言っていた、と思われる。つまりリアムさんとアランさんの実力は同じくらい……ということなんだろうか。リアムさんの任務には何度か同伴しているが、怪異程度では相手にならない。
……俺は、あそこまでリアムさんと渡り合えるだろうか、部下にしてもらっているとはいえ実力には隔たりがある。多分、俺と皇の間にも。普段の戦闘スタイルは寧ろ機動を生かしたヒットアンドアウェイが主流だと思われる。正確性を重視するのは寧ろ俺の方だけど……あそこまでの技量があるのか、というと
頷くことは非常に難しい。
「しゅー、しゃっしゅしゅしゃっしゅしゅ!」
「おーやってるやってる」
「ラリマー?メズラシイナ」
「すももが来たいって」
「うぴょ!」
「(ポンポン)」
「しゅ?」
「(ぐっ)」
小さい椅子を用意する前にスミレが自分の椅子を勧めていた。すももが是非を問うように首を傾げれば小さな手で親指を立ててから、イデアの上に乗る。……良いのかイデア、椅子代わりで。
「一応、椅子まだあるんだけど……」
「(ふるふる)」
「スワリゴコチイイモンナ」
「なんなな」
「み」
他の遣霊達も気にしてはいないらしい……一応椅子は用意しておく。すももに説明するようにレンとみうが何やら話しかけているが、意思疎通はどうなっているんだろう。
「状況は?」
「ソウホウテサグリ」
「見た感じ、アランはある程度確認終わってるのか」
「ソウダナ。ドウスルノカハシランガ」
「皇の動きにもよるだろうしな」
淡々と交わされる言葉に疑問がないわけじゃない。でもただ聞くだけじゃなく自分でも理解出来るようにと戦闘を観察する。最初の交戦に比べて変わった部分、特にアランさんの方に変化はないだろうか。確認が済んでいるというからには、何らかの変化があったはずだ。
視線、動き、そのどちらもが依然として俺には相手の反応を見ているように思えるが、ある程度の確認は終わっている……つまり、今見ているのは恐らく反応ではない。じゃあ何を見ている?
「……あ」
皇がもう一段階ギアを上げる。呼応するようにアランさんの気配も一段階、覆われるように遠ざかる。ずっと少し変わった形の剣だと思っていたアランさんの武器が、鈍い黒の輝きを見せた。
刀身に指先を沿わせるように伸ばし、更に虚空へ。何もなかった空間に刀身が伸びて、そこでようやく、さっきまであの武器は折れていたのだと気が付いた。
「何故、折れている武器を……?」
「ああ、あの長刀じゃないとアランの戦闘には耐えられない」
「トクベツセイダゾ」
リーチが伸びれば、自然と射程も変わる。踏み込んだ皇をいなす様に先程までと遜色ない速さで武器を取り回すアランさんはどこか無機質な……無機質な?
「あ、あの……」
「ンー?」
「アランさんの様子が……」
「様子……?」
「……カワッテタラセイランガウゴクトオモウケド」
二人の怪訝な様子にハッとした。まずい、気を付けていたのに。飛び出してしまった言葉の訂正も出来ず、昔を思い出して言葉が詰まる。
「だんな」
「っレン……」
みうから移動してきたレンが落ち着かせるように両腕を広げて俺に触れてくれる。呼吸を整えろと言わんばかりにぽんぽんと掌を叩くから、リズムに合わせるようにして呼吸を繰り返した。
「みぃ」
「……マジデカ」
「みゅ」
「あ、取り押さえられてる」
落ち着いてから視線を上げる。いつの間にか、皇は倒れてアランさんはリアムさんと青藍さんに押さえられていた。決着がついた……ということか?
「チョットオレセイランニツタエテクル」
「うぴゅっぴゅー」
「イリエハココデタイキ」
「あ、はい。……待機?」
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