第十話 恐怖と狂気・前編
「模擬戦」
「なななん」
「うぴ?」
皇がアランさんに誘われたらしい。誘われたというか、ほぼ確定事項だったというか。リアムさんは安全のために同席すると言ったので俺もついていく。何故か、レンだけじゃなくうぱーやみう、スミレも小さな椅子にちょこんと座って観戦体勢だったけど。
「あ、入江もいるじゃん」
「ヤホー」
「青藍さん、ワカバさん。こんにちは」
「なんななな!」
「そんな硬くならなくても良いけど……まぁいいや、こんにちは」
「コンチハー」
ワカバさんは番、その情報を知った上で見るとワカバさんはとにかくルコンさんか青藍さんと一緒にいることが多い。ただスキンシップの激しさで言えば青藍さんの方に軍配が上がるので……恐らく、考えていることはあっているだろう、とは思われる。
「青藍さんも来たんですね」
「どっちにしろ俺の方が被害少なくなるからね」
「違いない」
万が一があったときすぐ動けるように、とリアムさんと青藍さんは席につかず扉近くへ。ワカバさんはちょこんと椅子に座っているので、多分本当にただ観戦しに来ただけだ。俺はというと、下手に飛び出しても実力が足りないだろうからと待機を指示されていた。
アランさんが何を考えて皇を模擬戦に誘ったのか、安全措置として二人を呼んだのかは分からない。実力測定、というだけにしてはやけに警戒度が高いような気がするのは多分気のせいじゃないだろう。
「……」
「緊張してますか?」
対峙したまま静かに呼吸を整えている皇に、アランさんはいつもと変わらない……いや、少しだけ弾んだ声音で問い掛ける。
「緊張…………なん、でしょうか。……久し振りに使うので、少しだけ」
「あぁ。間が空くとどうしても慣らしが必要になりますからね」
皇は普段と同じ双剣を、アランさんの普段を俺は知らないので何ともいえないが、今回に関しては布を巻いた長物を持っている。何だろうかあれ、持ち手部分も簡素で全く検討がつかない。
「じゃあ、やりましょうか」
「はい」
ふ、と皇が目を閉じる。空気が変わる一瞬、無音の一拍を経て恐怖が動く。踏み込み腕を振り、受け流し更に追うように。
瞬間的な最適解、最速でもたらされる死を前にアランさんはまず首を傾けるだけで回避を行い、武器を展開しながら双剣に受けの姿勢をとらせる。取って返す刃は手首を捻ったことで跳ね上げられた刀身が受け止めた。
片方の剣で武器を押さえ、もう片方は急所に突きを。アランさんは敢えて武器を手放して皇の体勢を崩し、狙いを狂わせた上で反転し蹴りを放つ。受け身は取られていた、吹き飛ばされながらも的確に投擲されたナイフを一本を除いて躱し、一本だけは指先で挟むことで勢いを殺す。くるりと左手に持ち直している間に皇は上空から背後へと、刃を交差させて首を狙う。
「……成程。確かにこれは使い勝手が悪い」
呟きが聞こえた。納得の色を乗せたまま発された言葉に理解が追い付かず首を傾げていれば、ワカバさんがすい、と指を伸ばす。
「ネライドコロガワカリヤスイヨナ」
「狙いどころ……あ、急所しか」
「ソウダヨ」
首、心臓、はたまた頭部。皇の攻撃は脅威だが狙いが一貫しているためある意味では分かりやすい。勿論あの速度と正確性で狙われては狙いどころが分かったところで対処するのも厳しいとは思われるが、アランさんにとってはそう難しいものではないのだろう。




