第二十話 影は今、噛み合って
「……つまり私は、何らかの経緯を経てスイに利用されて重戦闘区域に医療部門職員として配属された、と……」
「要約するとそうなりますね」
「……」
簡潔な説明を受けた鳥飼は黙り込む。以前会った鳥飼に比べると少し口調というか気配が強い。何ていうんだろう、地に足をつけている、というのだろうか。
「……志葉さん」
「はい」
鳥飼が考え込んでいることを把握したんだろう、アランさんはそのままのトーンで俺に言葉を投げ掛ける。
「実はここに来る前に侵入者を捕獲したんですよね。そのときに発覚しましたが……複数名います」
「侵入者が……ですか?」
「ええ。遣霊が呼び水と見て間違いないかと。本体を捕まえなければキリがないので、一先ずシンに保管してもらっています」
保管という言い方が既に物騒だがそこは問題じゃない。遣霊を呼び水として複数の侵入者がいることと、リアムさんと宇月が遅効性の術式に取り込まれたこと、事態の把握は進んでいるはずなのに状況は好転しているように思えない。
「…………私がここにいるのは、”兄”が原因でしょうか」
「こちらの見立てでは、そうではないかと」
「あんのバカ兄……!」
「えっ」
思ったよりも柄の悪い発言に思わず素で驚いた。口調が乱れたことに気付いた鳥飼は少し咳払いをしてから口調を元に戻し、静かに言葉を紡ぐ。
「先に否定しておきますが、私は兄の辿った経緯についてヒュリスティックヘ何か恨んだりはしていません。元々兄は少し……意志疎通が難しい側面があったので、楽園教の介入があったとはいえ絶対に迷惑をかけたのは兄でしょうから」
「そうですか」
「はい。何故かあの顛末を知っている人達からは復讐すべきだなんだと言われましたが……寧ろ兄の暴走でご迷惑をおかけしたのですから、私としては贖罪の意味も込めて力になりたかったんです」
意外な話に俺もアランさんも曖昧な反応になる。鳥飼は健全な理由でヒュリスティックに所属しようとしていた、この感じだと……恐らく正真正銘利用されただけの人間だ。
「一つお聞きしたいんですが。スイさんとのご関係は……」
「遣霊です。でもスイが生まれたのは兄が理由ではなくて……幼少期に一人で遊んでいるときに、何らかの事故で生まれたらしくて」
「……事故」
「はい。詳しいことは分かりませんけど」
事故。……正直俺も遣霊の出現に関してはイレギュラーらしいので本来どういった状況で遣霊が現れるか、というのはあんまり理解していない。少なくとも遣霊は深い絶望の中で生まれる……ということしか分かっていないので。アランさんも発言に不自然なところが見受けられなかったのか、話を深堀りすることはなかった。
「こちらとしても出来るだけ迅速にスイさんを保護してこの状況を解決に持っていきたい所存です。鳥飼さん、ご協力願えますか?」
「勿論です。私が発端の問題ですし、自分の問題は自分で解決したいので」
強い意志で頷いた鳥飼にアランさんも緩い笑みを見せる。事態解決に協力的な姿勢なのは助かった、これで拒絶されていたら更に問題解決が遠のいてしまっていただろう。
「それで……これからどう動きますか」
「そうですね。重戦闘区域内での問題は入江さん達にお任せして……私達は本拠地にでも殴り込みに行きましょうか」
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