第十六話 模索・中編
出来るだけ気配を探りながら廊下を進む。東雲本人には言っていないが、前回の襲撃者と遣霊に繋がりがあった場合、東雲が狙われる可能性は高かった。
「皇さんは……確か先日、鳥飼さんと交流しましたよね?」
「そうだな」
「その際、遣霊は……?」
「いや、見てない。顔を合わせる前に気配を探ったけど一人だったし」
「そう、ですか」
今思えばあのとき遣霊がいなかったことで東雲が狙われている可能性を否定出来なくなってるのか。人形である以上外見情報は意味をなさない、一見認識阻害の意味がないように思えるけれど、材料が一般的に流通していないからこそ、恐らくそんなに数がない。
「遣霊の振りをして……あるいは、遣霊を乗っ取って。そこまでして重戦闘区域に入るのは……何というか、懲りませんよね」
「そうだな」
そうまでして重戦闘区域に入ろうとする意味はきっと分からない。それは俺達がここにいるからというだけではなく、目的が根本的に違うからだ。
「……遣霊って、ただ守られるだけの存在じゃないとは聞いてたんだけど」
「はい。遣霊は一種の不可侵領域……それは暗黙の了解という訳ではなく、事実として。怪異が触れられぬように、主人が傷付かぬように、彼らはそれぞれ固有の能力を持っていますから」
「それでも……それでも、駄目なのか」
「……」
そっと眉を下げたのは返す言葉を持たなかったからか。イデアが現れたときルコンさんは「固有の能力か」と聞いていた。スミレが、怪異や俺に危害が加えられないように出した存在なのかと、……実際には違うナマモノだったが。それはそれで何なんだアレ。
「鳥飼さんが何故遣霊を連れているのかが分からないので、確証はありませんが。……もしかすると、遣霊である自分が利用された方がマシ、という状況だったのかもしれませんね」
「……それは」
「勿論ただの憶測です。だからといってここで見逃すという選択肢を取る訳にもいきませんし」
「……」
遣霊である自分が利用された方がマシ。主人の心を守る存在である遣霊がそう判断せざるを得ない状況なんてどう考えても碌でもない。ざわめく感情を宥めるように視線を逸らす。
スミレは、どういう状況だったらそう判断するだろう。願わくばそんなこと起こっては欲しくないけど、仮に何らかの事情でスミレが決断を迫られる事態になったら…………。
「……ん」
「皇さん?」
思考を回している最中に気配を感じて立ち止まる。東雲を制してから指向性を定めて気配を探れば、廊下を曲がった先でふらふらと移動している誰かがいるのが分かった。
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