第十三話 箱が開く
「すみません宇月さん、少し良いでしょうか」
「あ、はい」
進展がないまま数日。鳥飼さんが席を外しているタイミングでふらりとアランさんが顔を出した。アランさんが医務室に顔を出すことは早々ないため、意外に思っていたら宇月さんも疑問を口に出す。
「珍しいですね。アランさんがここに来るの」
「そうですね。基本的には用事がないので」
用がない、というのは事実だろう。普段なら各区域を飛び回っているような人なので、基本的には医務室に来ない。
「それで――」
アランさんと宇月さんが話し始めたタイミングで、大人しくしているのが飽きたのかぴょこんとレンが顔を出す。なつくんもとてとてと近付いてきたからしゃがめば、二人でこしょこしょと話し始めた。可愛いな。
「なんのお話してるの?」
「なーす!」
「なぁん!」
楽しそうな二人。なつくんはここ数日間ひたすら医務室で大人しくしていたと聞いていたから久し振りに楽しそうなのを見て嬉しくなる。レンも同じ感情なんだろう、時々抑えきれない歓声が漏れていた。
「入江さーん!」
「あ、はーい!レン、なつくんとちょっと待っててくれる?」
「なん!」
レンをなつくんに預けて、鳥飼さんがいる部屋に向かう。辿り着いてみれば倉庫で明らかに大きな段ボールを運ぼうと四苦八苦する鳥飼さん。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ、入江さん……!すみません、思ったより重くて……」
「手伝います!」
「ありがとうございます!」
二人で協力して段ボールを持ち上げる。見た目の割に重い段ボールだな……中身を見てもそんなに入っている感じはない。不思議に思いながらも移動させて、本来の目的だった段ボールを見つけ出した。
「あ、あった!ありがとうございます!」
「見つかったならよかった。……そういえばスイくんは?」
「スイならそこに……あれ?」
鳥飼さんが示した先には小さなクッションだけが鎮座している。一瞬状況を把握出来なかったんだろう鳥飼さんが沈黙を経てから顔色を悪くした。
「まさか迷子……!?」
「落ち着いて鳥飼さん、もしかしたら散歩してるだけかも。俺も段ボールを持ってったらすぐ捜すの手伝うよ」
「う、うん……スイー!?」
段ボールを抱えて急いで医務室へ。勢いよく帰ってきた俺に驚いたような表情を浮かべたのは宇月さんで、アランさんは少しだけ目を細めてから俺に何があったのかと問う。
「スイくんが……鳥飼さんの遣霊が、迷子になって……!」
「遣霊が?」
「なぁす?」
「え、スイって鳥飼から離れるの?」
「……私も捜索に参加します。宇月さん、万が一スイさんがここに戻ってきたときの為にここで待機をお願い出来ますか」
「分かりました」
「レン、レンもここで待っててくれる?」
「だん!」
アランさんを連れて倉庫へと戻る。倉庫の中を探してたんだろう、鳥飼さんが不安そうな表情を浮かべて駆け寄ってきた。
「倉庫の中にはいないみたいです……!」
「てことは廊下の方に出ちゃったのかな……」
「……すみません鳥飼さん。私はアラン、遣霊が行方不明になったと聞いて捜索を手伝いに来ました」
「あ、ありがとうございます……!」
静かに口を開いたアランさんが動揺を鎮める様に鳥飼さんへ話しかける。アランさんの静かな声に少し落ち着いたんだろう、アランさんは続けて言葉を紡ぐ。
「捜索するにあたって、そのスイさんというお方がどんな姿なのかをお聞きしても?」
「は、はい。ええと――……」
そこまで言った途端、鳥飼さんがガクンと崩れ落ちる。驚く俺とは対照的に、アランさんは鳥飼さんが倒れてしまわないように支えたまま、険しい表情で立っていた。
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