第十一話 貴方の傷は、何ですか
「重戦闘区域に侵入者が出たみたい」
「し、侵入者……!?」
「うん。鳥飼さんも気を付けてね」
「はい!」
反応に不自然な点はなし。”警備”と称して私が立っていることに関しても嫌悪や困惑を示すことなく元気に挨拶してきた。……警戒を解く気はないけれど、あまりにも真っ直ぐとした反応にどうにもやりづらい。
「そういえば薬、作れそう?」
「はい!ありがとうございます!」
「それならいいけど……」
宇月さんが許可を出したということは毒とかではないのだろう。彼女が何を考えているのかは依然分からないままだが、警備隊の一人として私は謝罪しなければならなかった。
「鳥飼さん」
「はい?」
きょとんとした表情で私を見る鳥飼さん。……本当にこれでヒュリスティックや警備隊を恨んでいるのなら、途轍もない演技力である。
「少しお話がありまして。本日の夜は空いていますか?」
「今日の夜……はい、大丈夫です!」
宇月さんが少しだけ視線を向けたものの、結局何も言うことはなく視線は逸らされる。膝の上にいるなつさんも口を尖らせてはいたがそれだけだった。
「……なぁすん」
「そういえば……鳥飼さんの連れてる……スイくん、あんまり喋らないんだね」
「え?うん。そうなんだよね……喋れはするんだけど、人見知りしちゃってるのかも」
「あぁ……」
人見知り、と聞いて脳裏にすももさんが浮かぶ。彼は人見知りしすぎて逆に騒がしかったが、確かに普通はご主人の影に隠れたりするものかもしれない。口数が少ないどころか一切喋らないスミレさんがいるので違和感を覚えなかった。
「鳥飼さんは……いつ頃から遣霊と一緒にいるの?」
「ちっちゃい頃から……かな。物心ついた頃には一緒にいたから、私もどうしてこの子が生まれたのかは分かんない」
「へぇ……」
幼少期から、きっかけすら記憶にないほどの時期に生まれたと聞いて少しだけ眉を潜める。有り得るのだろうか、遣霊が主人の心を守るために生まれる存在なら、あながち有り得ないとも言い切れない。それに……もしかしたら、強いショックを受けて記憶を意図的に封じている可能性すら。
「宇月さんは?」
「俺は……うん。俺も小さい頃かな。とはいえ、俺は六歳の誕生日だったわけなんだけど」
「六歳の……」
「うん。色々あってね」
踏み込んでほしくない、そういう気配を感じたのか鳥飼さんもそれ以上の追及はしなかった。宇月さんの名字が藍沢ではないこと、恐らく実の親であろう方々と藍沢先生が絶縁状態になっていること、宇月さんが意図的に名字を伏せていること。重戦闘区域にいる方々が余程のことがなければ成り立ちを気にしていない性格だからこそ今までなぁなぁで済まされてきた部分。
「すぅん……」
なつさんの小さな声は、誰にも拾われずに消えていった。
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