第七話 秘める、願い
まとわりつくような視線がある。ずっと気持ち悪い感覚が追従している。体調不良と称して宇月を離席させてしまおうか、あるいは身柄を拘束して医療部門に文句を入れても良いだろうか。
「ななす……なすな?」
宇月が鳥飼に説明をする間、なつは邪魔にならないようにとの配慮なのか私の足元まで歩いてきたと思ったらそのままよじ登る。困るようなことでもないので本人の好きにさせていたら、抱えやすい位置に自ら収まった。
「すーん……」
「不満か」
もにょもにょと口を動かすなつ。何を考えているのかは分からないが、テンションが低いことは分かる。入江はどうにも警戒が薄かったようだが、はて。
宇月は夏音と同じく感情を押し込める。限りなく無に近い対応の下、蠢く感情の奔流を他者に開示しない。ずっと隣に激情は棲んでいる、澄みきった静寂ではなく、飲み干した静寂が彼らにとっての”仮面”だ。
「……さて、どうするべきか」
今まではずっと、アランやあやめ、シンさん達が受け入れた人達とだけ関わってきた。それはあの小さな安寧が崩れ去っても変わらなくて……今こうして詳細の分からない相手にどう接すれば良いのか分からない自分がいる。
「難儀なものだな」
「すん?」
不思議そうに体を傾けるなつの頭を撫でる。うぱーよりも少し小さい頭はくすぐったいのか小さく揺れていた。
「うぴゅ……!?」
「ゆん?」
何かを察知したようにがばりと周囲を見渡すうぱーくん。ゆきもつられてきょろきょろと視線を動かしている。
「どうしたんだ?」
「急にうぱーくんが……」
「ぴぴぴ」
「え、頭撫でる……の?」
「うぴ!」
「突拍子もないな」
戸惑いながらも頭を撫でれば嬉しそうに笑ってくれる。ゆきも真似するように頭を見せてきたから一緒に撫でた。髪質の違いか、ゆきの頭はちょっとふわふわしてる。
知らない人が医療部門から来る、安全かどうか分からないから少しの間身を隠していてほしい。そう説明を受けてぼく達は指定された部屋で過ごしている。冬音は最初不満そうだったけど、青藍さんが運動不足で暴れても困るから、と広めの部屋を用意してくれたしワカバさんやラリマーさんが構ってくれるから脱走する気配はない。
顔合わせの日から秋音はユディくんと仲良くなったみたいで二人で談笑中、冬音はミツバくんと共に今はワカバさんと遊んでる。春音はレンくんがいないから少し落ち込み気味だったけど、今は華蓮さんと一緒に身体を動かすために席を外していた。
うぱーくんに頭突きと見間違うかのような勢いで飛びつかれてるジュリアスくんは時々言い回しが複雑だけど、基本的には面倒見のいい”お兄ちゃん”だった。こっちが会話の意味を取れなくて首を傾げていると一緒に首を傾げて、出来るだけ通じる様にって更にややこしい会話にしてしまう辺りは少しだけリアムさんに似ている。
「うぴぴ」
「ゆーんゆ!」
うぱーくんとゆきがじゃれあっているのを眺めながらぐるぐると思考を回す。少しだけ聞こえた会話の内容が不穏だと気付いていて、何も分からないのはぼくらだけじゃないと知ってしまったから。
「……少しくらい、頼ってほしいね」
「?」
「ぴ!」
「ゆん!」
曖昧に微笑んで、言葉はそっと胸の奥にしまった。
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