第四話 怪しい雲行き
「初めまして!ヒュリスティック本部医療部門所属、鳥飼蒼空です!この子は遣霊のスイ!」
「……重戦闘区域所属、宇月、です。こっちは俺の遣霊のなつ」
「なす」
宇月さんの表情がびっくりするくらい硬い。まるで何かに耐えるような、衝動を押し込めているような。なつくんも普段の騒がしさはどこへやら、挨拶として一言上げたっきり口を開かない。
「……」
どうにか事前に人が来ることは伝えられた。だからこそなつくんも宇月さんの膝上で待っていた。だからこの硬い表情は情報を理解出来ていないというものではなく――別の、それこそ鳥飼さん本人へ向ける警戒になる。
リアムさんは普段通りの澄まし顔。大雅は少し眉を上げたけど明確な反応はなし。レンも急に飛び出してきたりはしない、俺からみても鳥飼さんは至極普通の職員に見えた。どちらかといえば気さくで、ルコンさんやシンさんのようにコミュニケーションを円滑に行うタイプに見える。
「……リアムさん、ちょっと……」
「ああ。……入江、私は少しここに残るが、大雅と一緒にこの書類を探してきてくれるか?」
「え?はい」
大雅が何かを囁いたと思ったら、俺と大雅だけ医務室から出される。リアムさんが残ったのは何か意味があるんだろう、ただ気になるのは、恐らく大雅の方から提案がなされているという点だ。
「大雅、何が……」
「詳しいことは資料室に行ってからにしましょう。……ここはまだ、気付かれる」
「……?」
殊更に声を潜めて告げられた言葉。「気付かれる」というからには……鳥飼さん本人かあるいは周囲に何らかの監視がある。もぞもぞと顔を覗かせたレンも言葉は発さずにちょこんと肩に座り直した。
「……それで、何があるの?大雅はなんか気付いてたみたいだけど……」
「なーん?」
俺とレンは何も分からない。だけど、少なくとも大雅と……宇月さんは何らかの警戒を敷いていた。リアムさんの反応は警戒だったのかどうか判断がつきかねるものだったが、それでも大雅の提案に頷くだけの何らかを察知していたとみるべきだろう。
「……鳥飼氷雨、という方を入江さんはご存じでしょうか」
「鳥飼……氷雨?」
「んん?」
「ゴメン知らない……」
「なん……」
鳥飼というからには関係者であるのだろうけれど……大雅も知っているということは有名人なんだろうか。一般区画での有名人なのか、はたまたヒュリスティックに所属しているのなら知っていてもおかしくないという判断なのかは分からない。
「鳥飼氷雨さんとは……かつて最重要危険人物として、一般区画で指名手配をされていたお方です」
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