第三話 知らぬ間に
「え、重戦闘区域に医療部門から追加配属……?」
「ああ。今アランが情報を集めているが……明日には来るだろうと」
「急……でもないんですかね、引き抜き以外で配置換えというのも珍しいように感じますが」
「まぁ、他の区域で人員不足が発生した場合は全体配備の医療職員が臨時で入るからな。明確に追加配備されるというのは珍しい」
宇月さんが配属されたからこその追加だろうか。俺達が重戦闘区域に来たことがきっかけなのだとしたら、どうしようもないけど少しだけ気にはなる。俺のもやもやに気付いたんだろう、レンがぺちぺちと手を撫でてくれた。
「早くても一週間、長い場合は一か月ほど滞在するそうだ。その職員は遣霊持ちという話だが――」
「え、遣霊持ち!?」
「なん!?」
「真偽は分からないが、前情報としてはそう聞いている」
「何でこんなタイミングで……?」
大雅の困惑は尤もで、俺とレンが驚くのも当然だ。一応遣霊というのはそう簡単に現れることはないはず……重戦闘区域では普通に見かけるが、本来は生涯で出会うことなど早々ない。入所直後や大きな騒動の直後ならともかく、こんな中途半端な時期にわざわざ配備するのは不可解にもほどがあった。
「一体どうして……?」
「追加配属……なんですよね?つまり今までは別の場所で、遣霊持ちのまま働いていた、と?」
「そういうことになるな。青藍さんの話では直近で起こった襲撃は研究部門の件くらいだと聞いている」
「んなん……」
大雅の問い掛けに頷くリアムさん。遣霊は心を守るための存在、まだまだ不明瞭な部分はあるけれどそこに関しては間違いない筈だ。つまりその職員がヒュリスティックに来てから遣霊を発現させていた場合…………東雲の件と同じくらい劣悪な状況にいた、ということになる。
「アランはまだ本調子じゃないから事務の方に回ってもらう。つまり対応するのは私達だ」
「あ、はい」
「んな?」
「相手も遣霊持ちと言っている以上、あまり姿を隠す必要性はないと思うが……万が一もある、姿を見せるときは慎重にな」
「だん!」
遣霊を連れていることで起こる様々な問題を体験していると、どうしたって知らない人相手には警戒してしまう。たとえそれが同じように遣霊を連れている相手でも。……そう考えると皇に対して警戒心が最初から薄かったのはなんでだろう。レンが顔を出したから……というだけならもう少し距離を置いてもおかしくなかった。
「因みにこの話、宇月さんは……」
「知らないだろうな」
……嘘だろ?
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