第七話 雪解けと新緑
「妖怪ってのは番が必要な生き物ってのは聞いたと思う。番を求め、契りを交わしたものが妖怪……つまり、重戦闘区域には番として連れてこられた存在もいる。俺達みたいにな」
「えっ」
「オレト、ユッキート、ラリマーハソウダゾ」
以前、ワカバさんをルコンさんが呼んだ時、ルコンさんはしきりに『魔術組』と言っていた。組というからには複数いるのだろう、雪代さん達もそうだとみて良いのだろうか。
「俺達はシ……あー妖怪と呼ばれてるシンさん達みたいに職員であるお前らと一緒に任務に出ることはない。基本的に許可されてないっつーか……そもそもねえんだよな、人権」
「人権」
「そう、人権」
「カイムダゾ」
任務同行不許可、人権皆無、番……以前リアムさんが言っていたことが、ふと思考に混ざり込んだ。
「扱いが……遣霊と一緒、ということですか?」
「単刀直入にいうならそうなるな」
俺の言葉に肯定がなされれば、皇が少しだけ目を瞬かせた。一度眠っているスミレの方を見たと思えば、すぐに視線は戻される。何を考えたんだろう、その行動の意味を問う前に皇は口を開く。
「魔術組」
「ああ、ルコンが言ってたんだろ?俺達もただ守られる存在ってのは腹立つから色々文献漁ったりしたんだよ。幸い本部ってだけあって資料はごまんとあったし。で、辿り着いたのが魔術ってワケ」
「雪代さんは強いぞ。一般的な職員よりも技量が上だ」
リアムさんのお墨付き、か。職員よりも技量が上というのはちょっと強すぎないかと思わないでもないけれど……俺も皇も一般職員の強さは分からない。重戦闘区域の職員である以上リアムさんもアランさんも技量は平均以上のはずだ。
「職員より強くても……戦闘許可が下りないんですか」
「ま、俺らはあくまでも”制御装置”ってこったな。妖怪も番も戦えるとなりゃ、いよいよここに収まる意味がなくなっちまうと思われてる」
「ココラクダケドナ」
「そうね。実際は外より楽だよここ。その平穏を維持するのにアラン達がすっげー頑張ってくれてるからね」
「そうですね」
こくりと頷いたリアムさん。以前青藍さんとレンを含めて四人で話したときよりもどこか素直に見えるのは気のせいだろうか。基本的に肯定しかしていないからそういう風に見えるんだろうか。
「だからお前ら二人が来たことに対してあやめとか相当驚いてたと思う。遣霊持ちは今までも会ったあるが、大体支部の方に行くんだよ。本部、しかもアランとリアムの部下とか前代未聞だからな」
「アヤメハ?」
「あいつは部下じゃなくて後輩なだけだから」
「ソッカー」
部下ではなく、後輩。重戦闘区域の職員は三人しかいない、そこを加味するとアランさんとリアムさんが一番の先輩ということだろうか。入所式で挨拶をしていた辺りアランさんはそれなりに高い地位にいる可能性があるんだが。
「あの……俺をアランさんの部下に推薦したの、シンさんなんですけど……」
「あぁ、そうね。シンさんが何見たのかはよく分かんないけど……多分俺でもそうする。入江の方は?」
「俺は青藍さんでした」
「カンゼンリカイ」
いぇーい、とハイタッチする雪代さんとワカバさん。そうか、リアムさんもそうだったけど本人達の意思というよりは彼ら……恐らく妖怪である二人の意見を採用した結果、となるのか。とはいえ雪代さんも同じ意見になると言った、つまり何らかの判断基準がある。
「あの、俺は理解していないんですが」
「あれ、お前正気度測れないんだっけ?」
「あの変動値どこで確定させればいいんですか」
正気度。少し口を尖らせたリアムさんの頬をむいむいと捏ねるワカバさん。……やっぱりちょっとあどけない。
「じゃあ軽く説明しとっか。まず入江な、お前……正気度詐称出来るだろ」
「ええと……?」
「詐称ならよくいるのでは……?」
「ンな生半可な技術じゃないんだよコイツのは。詐称であるが事実として扱われる、まぁ……簡単に言うと、管理人を騙せる」
「えっ」
「?」
皇と俺には聞き覚えのない単語だ。リアムさんが驚いたということはその管理人なる存在を騙すのは相当難易度が高いのだろうとは分かるけれど。
「次、皇に関してはもうシンプルに正気度が動かん」
「???」
皇は以前理解及ばず、という表情を浮かべているが流石にその異質さに関しては俺も分かる。何があろうと一切動じない、感情の波がない、そんなこと本来ならば有り得ない。
「それと部下になるのにどんな関係が……」
「正気度の特殊性ってのはお前らが思ってるよりも希少性が高いってこった」
「???」
説明してくれる気はないらしい。俺の詐称に関しては自覚がないんだが……大丈夫なんだろうか。
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