第一話 その色は、遥か遠く
「そろそろ本部の方に戻る。人手不足と判断されて人員増やされるのは望んでない」
「そうですね。単独且つ新人ってこともあって相当敵視されてますし」
「しかも俺の部下だからな。反感買う要素しかないぞ」
和やかな口調で何やら殺伐とした会話が交わされている。夏音達の保護からずっと重戦闘区域に滞在していた藍沢先生だが、どうやら医療部門の本部に戻るらしい。
「何で藍沢先生の部下だと反感を買うんですか」
「俺が叩き上げだからだな。実力があっても肩書きがないってのはあいつらにとっちゃ一番苦手な相手なんだよ」
「わざわさスカウトしたのに……?」
元々出張医師のような立ち位置だった藍沢先生をスカウトしたのは他でもないヒュリスティックの上層部だ。藍沢先生はあまり乗り気じゃなかったと聞いているが、結局何らかの取引を交わして今ここで働いてもらっている。
「宇月、無茶はするなよ」
「はい。藍沢先生こそ、独断専行は控えてくださいね」
「おなぁす!」
藍沢先生が直々に部下にしている、というのは非常に珍しい。正確には部下兼弟子というのが、だが。初めて会ったときから部下はいる、でも藍沢先生のいう部下は保護対象としての部下であり、宇月のように庇護下から外すような扱いはしていない。
宇月が心の傷がみえるということと関係があるのだろうか。遣霊を連れていて、特殊な眼を持っていて。時折見せる無垢な聡さが危うさを生んでは兄さんからフォローが入る。遣霊の反応を見ても宇月の過去は透けない、藍沢先生との関係も分からない。
「ああ、アランに関してはあと三日は安静にさせとけ」
「分かりました」
「なぁすん!」
てきぱきと指示を出してから重戦闘区域を後にした藍沢先生。藍沢先生を見送ってから通常業務に戻ろうとしたのであろう宇月と、不意に目が合った。
シンさんやソウに近い色、しかし氷のような冷たさも流れる水のような捉えどころのなさもない。どちらかといえばうぱーのような、どこまでも広がる空を溶かし込んだような色合いだ。何もかもを見抜くような瞳は事実心の傷を見抜く、それであの空が曇るのは――――どうしてだろう、酷く勿体ないように感じた。
「……」
「え、何?」
「……似ているな」
「似てる?何と……?」
「うぱーと」
「待ってそんなに俺煩いか!?」
「ぴょ?」
俺の言葉に反応したんだろう、散歩に出ていた筈のうぱーがひょっこりと顔を覗かせる。別に煩さがうぱーに似ているという意味ではなかったのだが……なつとなにやら歌い始めてしまったうぱーに気を取られて訂正し損ねてしまった。
「リアムーちょっといーい?」
「あ、はい」
シンさんに呼ばれて部屋から出る直前、なにやら納得いかない、という表情を浮かべつつもうぱーとなつに構っている宇月を見て。
何故か、過去が重なったのはどういうことなんだろう。
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