第三十一話 静寂は、穏やかに凪いでいる
「そうですね、療養が済み次第支部の視察に行こうかと」
「ぐぅ……!」
「まぁそう簡単に許可は出さないがな」
ミツバくんの押しに負けて札木博士なる職員は残り日数をミツバくん達がいるエリアで過ごすことになったらしい。研究部門の職員相手に大人しくしている保証がないからという理由で俺はリアムさんの監視を言いつけられていた訳だけど、流石にリアムさんも無理矢理医務室に突撃することはなかった。その代わり許可が下りた瞬間突撃して今に至る。
「ななぁす!」
「みうくんにまで影響出てたとなると少し長めに休むべきだと思いますよ。アランさんだってみうくんがまた熱出すのはいやでしょ?」
「それは勿論。みうには元気でいてほしいので」
「そのために自分の不調を隠すなと言ってるんだが??」
「うっ……はい」
藍沢先生の指摘に言葉を詰まらせるアランさん。流石に自覚はあるのか……自覚があっても行動が伴ってなかったら意味ないんだけどな。割と言うことを聞かない相手には辛辣ななつがあまり口を挟まないのが少し意外だった。
「支部の視察ついでに放棄エリアの確認もしてきます。最近発生した変異型が精神干渉に特化しているのを見るに、あそこに立ち入った不届き者がいそうなので」
「……ま、無茶はするなよ」
「ええ」
「やだ……」
絞り出すような拒絶の言葉に、アランさんは少しだけ困ったように眉を下げてからリアムさんの頭を撫でる。こういうやり取りを見るとリアムさんはまだまだ幼いんだろうな……という感慨が浮かんでしまうから困る、見た目は充分成人しているのに子ども扱いしてしまう周囲の気持ちが良く分かってしまうのだ。
「すなぁ?」
「み」
「え、ああ……そうですね、放棄エリアを回るのは最後なので……みう達は青藍と一緒に先に帰ってもらおうかと」
「なぁす!」
「みー」
「一応元々は支部があったエリアなので……」
「なぁすん」
なつの言葉をみうくんが翻訳して、アランさんが答える。凄いなアランさん、何でみうくんの言葉を当然の様に理解してるんだろう……というか遣霊間なら言葉が通じるんだ、通じてるのか……?うぱーくんの言葉とかみうくん分かるのかな、単純にみうくんの翻訳能力が高いだけの可能性もある。
「支部があったエリアでも放棄されるんですね……」
「そうですね。何せ怪異の傾向が精神汚染だったので……」
「逆によく一時でも支部作ろうと思いましたね?」
「初期の頃だったので、加減が分からなかったんですよ」
「ある程度実力がなきゃやっていけなかったからな」
そうか、職員が少ない状況で回していたのだとしたら精神汚染耐性の基準が平均より高くなっていてもおかしくはない。そこまで考えてからふと疑問が浮かぶ。
ヒュリスティックの本部と支部、その設立は同時期だった。元々はこのセントラルを拠点として、支部は必要に応じてテレポートする形だった。それが……どうしてか、支部にも人を配置する、という今の形になったのだ。最初は確か、迅速に怪異へと対処するための変更だったと覚えているけれど。
「……」
「宇月?」
「ええと、何で放棄エリアって放棄されたんですか?」
「?ですから、怪異の傾向が……」
「だって元々支部があったのなら、以前の形態に戻すだけで良いですよね?」
「……」
目を丸くしたのは一瞬だった。アランさんはすぐに口角を少しだけ上げて、俺の頭をぽんぽんと撫でる。
「そうですね。それが出来れば放棄エリアにする必要はなかったんですけど……実は、テレポートや召喚が怪異を引き寄せるという説が浮上した頃だったんですよね。高頻度のテレポートは怪異を引き寄せるという説は未だ否定されていませんし」
「あ……そういえばそうか」
「はい」
柔らかく、俺の言葉を否定せずに理由を話してくれるアランさん。……なんとなくだけど、リアムさんがアランさんの前で幼くなる理由が分かるような気がしたな。
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