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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第六章 静寂の水底へ
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第三十話 出逢えた意味を

 札木職員はミツバに引きずられる形で散歩に出た。そのタイミングを見計らってかするり、と医務室に東雲が入って来る。気配に違和感はない、いつも通りの穏やかさで東雲は口を開いた。

「アランさん」

「東雲さん」

「あてー!」

にこにこと、満面の笑みで手を振るとあが東雲から離れみうに駆け寄る。もいもいと頬を寄せ合っているのは微笑ましい。

 東雲は俺に少し会釈してから椅子を持ってきて近くへ座る。なんとなく、俺もアランさんも東雲の様子が気になって口を噤んだ。スミレが片目を開けて気付かれない程度に耳を澄ませている。

「体調はどうですか?」

「ええと、はい。問題ありませんよ」

「それならよかった。あまり精神に干渉することは……経験が少ないので」

「あぁ……いえ、充分すぎるくらい完璧でした。東雲さん、ありがとうございます」

俺は情報を集め、東雲はアランさんの治療に当たった。今回の騒動において東雲の存在はあまりにも大きい。”アレン”という名前を引き出すことも、俺達が情報を集めている間の遅延も、……そして何より、情報を基にアランさんを正気に戻すことも。

「……アランさん、は。……東雲透(しののめとおる)という職員を、覚えていますか?」

「――――ええ。かつてヘブンにいた職員、ですね」

 アランさんの気配が変わる。ヘブン、その単語はアランさんが言っていた。東雲が死んだとき、ヘブンの職員を全て殺した、と。今ここにいる東雲が幽霊だなんてことはない、だけど、東雲の発言もアランさんの反応も、初対面としてはおかしな部分が多かった。

「東雲透は私、いえ……()を作った人の名前です。故に、俺の中には透としての記録が確かに残っています」

「……」

「ありがとうございます、透の身体を守ってくれて」

「…………いえ、感謝されるようなことはなにも。寧ろ俺は、あの時透さんに守られた側です」

アランさんは何かを抑え込む様に言葉を吐き出す。死んだとき、殺した、その言葉をそのまま受け取るならヘブンという場所で東雲職員が死に、その肉体を守るためにアランさんは周囲の職員を殺したということになる。そして今支部にヘブンという名がないのは――――上層部としてもその事件は隠しておきたいほどの案件だった、ということだ。

「透さんが殺される必要なんてなかった。せめてあと一日、あと一瞬でも俺が躊躇わなければ――――」

「いいえ。……透はあのとき、貴方が躊躇ったことで安堵していましたよ。命を奪うことを躊躇う優しさが残っていたことを、その優しさがきっとこの先の貴方を傷付け続けること。安堵して、そして後悔したんです。最期に一言すら零せなかったことを、貴方をただ傷付け苦しめてしまうことを」

東雲の手がそっとアランさんに触れる。また東雲の瞳は色素を薄くして、透き通るような視線で慈しむような色を乗せる。

「俺は、透じゃないけど。それでも重なるものがあるのなら」

 祈るように手を握る。希うように、引かれた線を溶かす様に。

「どうか、今度こそ俺に、貴方の心を守らせてください」

柔らかな優しさは、アランさんに沁みただろうか。

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