第六話 ももももも
「み、みー」
「だんななー!」
「レン?」
入江が真っ先に反応すればつられて全員が視線を向ける。とてとてとみうがレンを抱えて歩いてくる、その後ろにアランさんがいた。流石に駆け寄るまではいかなかったあやめさんを追い越してうぱーとももがイデアに乗ったまま走っていく。
「もももー」
「もも、おかえり」
「もんもも」
「あややや……あやめも帰って来たのか、おかえり」
「兄弟そろって誤魔化せてないんだよな……ただいま。それと説明」
「ああ、皇は俺の、入江はリアムの部下になりました」
「詳細な説明を求む」
「もんももも」
即答だった。アランさんは少しだけ首を傾げて疑問の意を示す。
「詳細な説明」
「ああ。具体的には…………説明が長くなるな、部屋に行くか」
「もももい」
「うぴゅ?」
「みゅ、みみ。みーみ?」
「(コクコク)」
「みぃ」
「もももー」
「だんななー」
何だろう、アランさんとあやめさんの会話と並行して遣霊間でなにやら会話が行われてる気がする。どういう結論に至ったのかはよく分からないが、イデアに乗ったままももはどこかに行ってしまった。ぴょんとイデアから降りたうぱーは俺の周りをくるくると走り回っている。
「ももが行ったということは……ここじゃ邪魔になるな。スミレ、イデアはお前の場所分かるのか?」
「(コクッ)」
「ならば移動しようか。皇も来てくれるか」
「あ、はい」
足元を駆け回るうぱーがはぐれないように気を付けながら廊下を移動する。みうはレンを連れたまま入江と手を繋いでいるし、スミレは相変わらず地面に降りる気配がない。
談話室に辿り着いて数分、遠くの方からももの声と思しき音が聞こえてきた。ただ、不思議なことに気配が少しだけ、多い。
「?」
「ああ、予想よりも連れてきたな」
「え……?」
ひょい、とももが顔を出し……その後ろに更に遣霊?と思しき存在。そして二人を追いかけるように、見知らぬ人二人とワカバさん。
「おー本当にいた」
「ちっちゃいのいる……」
「なん?」
「案外許可下りるの早かったですね」
「まーね。部下になるって本決まりしたからじゃない?」
黒い髪がさらさらと流れ落ちる。綺麗な人、だけど生命力が強いというか、地に足がついた印象が強い人だ。もう一人の方がどこか浮世離れした気配を纏っているから余計に。
「あ、俺は雪代。大体の奴らからはゆっきーって言われてる。こいつはラリマー」
「こんにちは」
「初めまして……入江綾華です」
「皇志葉です」
「で、ももと一緒にいるのがすもも。もも……というかあやめの弟みたいなやつの遣霊」
「しゅ!」
「ももー」
成程、兄弟そろって遣霊持ち。……明言はされてないが多分あやめさんの発言的にリアムさんとアランさんも兄弟だったか。よくあることなんだろうか。
「フタリハオレノドウルイダゾ」
「同類……ですか」
「ウン」
「まぁ同類だな。うん。因みにすももは人見知りがすごい」
「しゅー!」
「これ威嚇音な」
「あ、威嚇してるんだ……」
よく喋るな……とか思ってたら絶賛警戒されてたらしい。確かにちょっとだけ険しい表情をしているし、何故か両腕を上げている。
「ももももー」
「あ、こら」
「もい」
「うぴょー……」
「みゅ……」
マイペースにイデアから降りて近くに来たももがなにやら青い……ブルーハワイシロップ?と書かれた瓶を直飲みしている。シロップって直飲みしていいんだろうか、そもそもそんな青い液体存在するんだ……。
「あーあー、せめて何かにかけて食べろって言われてるだろ」
「もんもーん」
「しゅ……」
「おいしい?」
「もい」
「マズカッタラノミツヅケナイヨナ」
常習犯なのか。スミレは興味なさそうだが、イデアはふんふんと顔?を寄せて興味を示している。……まぁイデアなら瓶ごと食べても多分大丈夫だろう。レンは若干引いていた、多分あれが正しい反応である。
「シロップを単体で飲むのは……良いんですか?」
「いや、流石に止められているんだが……そもそもももの偏食が酷くてな、青い食べ物以外嫌がるんだ」
「そういうのもあるのか……」
「シロップかければ食べるけどなー。ただ本人も真理に気付いたのか直飲みが止まらない」
「そんなことあるのか……」
「もい」
雪代さんに瓶をつつかれてももが漸く飲むのをやめる。すい、と瓶を雪代さんに預けるとすももに対して手招きをする。すももの方は躊躇うように視線を泳がせたが……みうが近付いてレンが何やら肩に乗れば、意を決したように近付いてきた。
「ももん」
「しゅーしゅ」
「?」
ももと少し言葉を交わし、何故か俺の前に立つすもも。そのまま何故か俺の顔をじっと見つめ、おもむろに頬を挟まれた。
「うむっ」
「…………」
「……」
すももには頬を挟まれ、何故かスミレにはじっと見つめられている。少しの間その奇妙な状態が続いたが、すももが手を離したことで解放……されることなく、今度はスミレの手がむいむいと頬を揺らしてくる。何なんだ一体。
「めっずらしー……すももが初対面の相手に興味示すとか、早々ないだろ」
「威嚇しないだけで充分珍しい」
「もんも」
「……」
みうを膝上に乗せ、レンのことをちょいちょいとつついていた雪代さんが感嘆の声を上げ、イデアを観察していたラリマーさんは少しだけ驚きの色が混じった声で反応する。ふと、やけにうぱーが静かだなと思って視線を動かせば、いつの間にかすぴょすぴょという寝息を立てて入江の傍で転がっていた。
「キニナルカ?」
「しゅ」
「アトデナ」
「ももももー」
ワカバさんは何やら行動の理由が分かるらしい。ももはとてとてと入江の膝に乗り込み、それに気付いたレンがばたばたと暴れて入江の方に走っていく。
「んなん!」
「もんも」
「なんなんなん!」
「もーい」
「なん!」
「もん!」
「「…………」」
「え、何か和解してんだけど」
「通じ合うものがあったのか……?」
レンとももが謎の共感を発揮しているのに対しては誰も何が起こったのか分からなかった。ただ全員が言葉こそなかったが「喧嘩しなければそれでよし」と言わんばかりの風潮だったのでそのまま流される。
「んみぃ……」
「流石に眠いか?」
「レンも眠そうね」
「ソロソロオヒルネノジカンカ」
「……」
「あーラリマーもおねむだわ。ちょっと布団出すから待っててなー」
「手伝う」
「俺も……」
「いやお前は良いよ。スミレがへばりついてるし」
結局、雪代さんとリアムさんが布団を敷いてそこに遣霊達とラリマーさんが転がる。先に寝入っていたうぱーも移動させれば完了だ。スミレは俺の上着から手を離さなかったので上着ごとおいてきた。
「さて……」
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