第二十四話 薬毒を秤る
何か気が付いた時には重戦闘区域に研究部門の博士がいたんだけど。なんで?
「青藍最近気が緩みすぎじゃなぁい?」
「緩んでないしイレギュラーばっかりだったじゃん」
「でも流石に博士の侵入許しちゃってるのは……」
「ホント最悪……」
研究部門、別に常日頃から監視してる訳じゃないけど……少なくともあの札木っていう博士は変なやつであってそんなこっちに干渉しそうなやつじゃなかったじゃん。部下はいないし研究室という名の調理室生成するようなやつだけど。何であれで博士名乗れてるのか謎なレベルで仕事してない。
結果的に、あの札木博士がアランに干渉したことで研究部門からの呼び出しは無効となった。残り日数分札木博士だけ置いておけば今回の呼び出しが終わるの、とんでもないメリットではあるんだけどどうしても全員警戒が解けない。取り敢えず入江とか外羽とか明らかに研究部門の職員と会わせられない面々とは物理的に距離離したけど。
「因みにさ、皇くん達が連れて来た子達、青藍的にはどう思う?」
「マジ万死」
「わぁい強火☆」
小さな手がもしゃもしゃ動いてるの、久し振りに見たじゃん。あんな一人で生きられやしない子供、びっくりするくらい強い力で双子の片割れ離さなかった赤子を、半分だけ再現したとか本当にどうかと思う。どっちも再現してようが腹立つことに間違いはないけど。
「ま、青藍的には許せる訳ないよねぇ。なんせあの赤ちゃん、ベースワカバくんだし」
「絶対犯人見つけて絞める」
「何か冬音くん見た時よりも荒れてない??」
「アランさん、失礼します」
「志葉さん?」
一言断ってから室内へと足を踏み入れる。室内にはアランさんと藍沢先生、それと研究部門の職員であるらしい札木職員がいた。
「見慣れない顔だな、新人か?」
「初めまして。皇志葉です」
「ああ初めまして。札木総一郎だ」
礼儀正しいなこの人。一応監視も兼ねて医務室に来たわけだが……何だろうこの人、向けられる感情が好奇心くらいしかない上に警戒心がなさすぎる。アランさんの方もあまり警戒していないのが逆に困惑を加速させた。
「どうしたんですか?」
「シンさんから様子を見に行ってほしいと言われたので」
「ああ監視か」
「もうちょっと言い方あるだろ」
「正直このタイミングで来た余所の職員を監視なしで放置するのはあまりにも愚策すぎる。確かに俺は比較的制圧しやすい方だとは思うが、病み上がりの人間に全て任せるほど非情じゃないだろ?」
……なんなんだこの人。合理的……と言ってしまえばそうなのかもしれないが、どこか根本的にずれている感覚が拭えない。何が違和感なんだろう、立ち振る舞い、言動だけでは片付けられない何かが俺の思考にノイズを掛けている。
「……」
「お、遣霊……と何だその黒いの。お前の特性か遣霊の固有能力か?」
「(ふるふる)」
「違うのか」
「違います」
スミレがイデアと一緒に堂々と室内に入って来る。当然の様に俺に登ってきたから俺の遣霊だとすぐに気付いたんだろう……その上でイデアについて疑問に持つのは最早様式美である。残念ながら答えはないけれど。
スミレは札木職員に特段警戒する訳でもなく、せっせと俺によじ登りいつものポジションに収まる。ブレないなスミレ、アランさんの隣で寝ていたみうとうぱーを見ても無反応だったから大丈夫だろうとは言われていたけど、嫌味を言われる可能性だってあったんだぞ。
「小さいな遣霊……いや幼子の姿らしいとは聞いていたからそんなもんなのかもしれないが」
「スミレは小さい方です」
「個体差か」
「はい」
「(こくこく)」
一応札木職員を認識しているのか、スミレは普段よりもちゃんと反応を見せている。イデアはマイペースに謎の伸縮を繰り返したりころころと転がってみたり。コイツ踏まれたり実験台にされる可能性とかは考慮……してないんだろうな。一応この部屋にいる知らない人は研究部門の職員なんだぞ、少しは警戒してくれ。
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