第二十二話 自らの枷
アランさんのことで重戦闘区域全体がてんやわんやしていたけど、怪異は一切待ってくれない。アランさん達は勿論、リアムさん大雅も動ける状況になかったから俺とウロさんの二人で仕事をこなす。レンは華蓮と一緒に春音くん達の護衛。
「そっちどう?」
「気配なし、大丈夫です」
「よし、じゃあ戻ろうか」
「はい」
ウロさんはカメラで怪異を収納する。本人曰く技量が高い相手には通用しないらしいけど、怪異のみならず人間でも妖怪でも、とにかく何でも写真に閉じ込めることが出来るらしい。本人曰く特性を利用した曲芸に近いものらしいけど。
「さっき連絡が来て、取り敢えずアランの方は解決したみたい。……とはいえ、途中で切り上げられた形になるからまだひと悶着ありそうだけどね」
「流石に誤魔化せませんよね……」
「うん。どうしたものかな」
考えていても仕方がないけど、不安ばかりがぐるぐると思考を回している。オーシャンからの協力要請はあくまでも一時的なものだった。明確に研究部門からの招集を突っ撥ねるには少し理由が弱い。
「強引な手段で良いならゆっきーの言ってた爆破でも良いんだけど……」
「え、爆破?」
「うん。流石に純岩盤は無理だから機材だけ木っ端微塵にするつもりらしいけどね。ゆっきーはやるっていったら絶対やるし……」
「純岩盤は無理って……逆にあれ、破壊出来るんですか?」
純岩盤とはとても硬度の高い魔術物質であり、破壊はおろか傷付けることすら困難な代物だ。魔術物質であるが故に破損しても自然修復が為されてしまうため、機密性の高い施設の素材に使われている。ヒュリスティックも例外ではなく、内部でどれだけ暴れても壊滅的被害が出ない理由だ。
「出来るよ完全破壊。とはいえ、今出来るのは精々アランくらいだろうけどさ」
「アランさん出来るんですか!?」
「あ、本人はあんまり指摘されたくないみたいだけどね」
とんでもない情報じゃないだろうか。今出来るのは、ということはかつてはもっと破壊出来る人がいたということで……そんな強い職員がいなくなったのは相当な痛手だろう。
「アランにとってはさ、人間も怪異も、有機物も無機物も特に違いってないんだよね。なんせ全部等しく壊せるものだから」
「そう……なんですか」
「そうだよ。だからこそ特性の使用に関しては殊更に気を付けてるし、自意識の制御にも気を配ってる」
純岩盤すら完全破壊出来るのなら壊せないものなどないだろう。以前リアムさんが言っていた「自己の認識で対象の属性を歪める」というのも、本人の中で万物が等しいものだからなのかもしれない。
「……いっそ、投げ出してしまえば楽なのかもしれないのにね」
少しだけ寂しそうに呟かれた言葉は、否定も肯定もされることなく風に混じって消えてしまった。
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