第二十一話 上げた声を、本当の意味を
「……お前、意識朦朧としてても部下を呼ぶ判断は出来たんだな」
「え」
部下。呼んだ……呼んだ?先程宇月さんが言った言葉を思い出す。オーシャンでおかしくなったと聞いた、それはつまり、オーシャンで何か事件が発生したため急遽介入し、その際に俺は志葉と東雲、あるいはどちらかを呼んだということになるんだろうか。
「皇に関しては分からなくもない。だが、正直東雲まで呼ぶとは思わなかった」
「まぁ確かに……?管理人が暴走しそうなら入江さんを呼ぶ可能性の方が高そうですし」
「……。”アレン”、なんだそうだ」
「 」
思わず言葉を失った。それと同時に、何故東雲だったのかも同時に思い至る。
「詳しいことは知らん。意識を歪められた、故に東雲は遅延を選択し、皇は解決のために研究部門に潜入した」
不可抗力、では許されない失態だ。知られることで危険性は跳ね上がる、懸念がまた一歩現実へと歩み寄る。何のための偽装なのかを見失いそうになる。
「”アレン”の名前を知っていたのは東雲だそうだ」
「そう……ですか」
「何故知ってる?お前のそれを知ってるのは、旧セントラル時代からいる奴だけだろ」
「……」
藍沢先生は俺が東雲の事情を知っていると踏んで疑問を投げかける。当然だろう、志葉だけじゃなく東雲も呼んだのは間違いなく俺なんだから。知らなかったというにはあまりにも状況が整いすぎている。
「……ノーウェアにいた、という訳じゃないです」
「ああ」
「確信はないですけど、多分……会ったことあるのは事実で」
「……詳細を言いたくないならいい。だが一つ聞かせろ、何処だ?」
「ヘブン、です」
「この子はミツバくん。多分末っ子だよ?」
「あうあー」
「それでこの子達がジュリアスくんとユディくん」
「……」
「こ、こんにちは……?」
ユディ、と呼ばれた子供を守るような立ち位置のジュリアス。通路の先で出会ったときからずっと警戒していたから特に気にはしない。
「改めて、皇志葉だ。こっちはスミレでこれはイデア」
「東雲泰誠です。この子はとあ」
「たちてたちてー!」
ジュリアス、なんだか……リアムさんに似ているような気がするな。視線の強さだろうか、それとも言葉はないのに伝わって来る意思の強さだろうか。
「あぶ」
「(あわわ)」
「あースミレくんのおてて食べられてる」
「スミレ、大丈夫か?」
「(ふるふる)」
「駄目そうです」
「あはは、食べられちゃったかぁ」
ミツバをソウさんに返して、スミレの手をハンカチで拭う。スミレも自分の手が食べられるとは思ってなかったんだろう、まじまじと自分の手を見つめて口元に持って行ったが……スミレ自身は口が小さすぎるため不思議そうな顔をして諦めた。
「まだ詳しい話は聞けてない……というか、全員警戒されちゃっててさぁ、どうしよっかなってかんじなんだよね」
「そうなんですか」
「うん。ほら、現にジュリアスくんなんかこっちのこと警戒して――って、あれっ」
気が付いたら東雲がシレっとユディの方と仲良くなっている気がするんだが。ちょっと目を離しただけだぞ、早すぎないか?
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