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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第一章 進むために、見つけるために
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第五話 ももももももも

「もん」

「えっ」

 くい、と下の方から引く力があった。くりくりとした緑色の瞳とまるまるとした頬、スミレよりやや小さいか?同じくらいか……。

「遣霊……」

嘘だろ。ここでも迷子っているのか。小さな手でよじ登ろうとしてくるのを曖昧に阻止しながら思考を回す。アランさんは今日任務だったか、リアムさんはどこだろう。

「ももも」

「いやちょっぐっ」

「……(じー)」

 背後から衝撃。軽かったけど急すぎて変な声が出た。明らかに不満、という表情でぶつかってきたスミレはじっと俺の目を見ながらじりじりと登ってくる。お前も登るのか。

「おい背中は危ないから一旦降りろ」

「……」

「イデアを紐代わりにしても駄目だからな」

「…………」

「もんも」

「おい何でしがみついた、今降りようとしてただろ」

「………………」

駄目だ、何故か意地でも背中から離れようとしない。迷子の遣霊はマイペースにまだよじ登ろうとしてくるし。助けてほしい、切実に。イデアは紐状の何かになって俺の腰辺りに巻き付いてきている、何してんだコイツ。

「ももー?どこだー?」

「もんもも」

 知らない人の声。遣霊が反応したと言うことは主人だろうか、音の大きさからしてそう遠くない筈だが……この小さい歩幅では充分遠いのか。少し悩んでから一言断って抱え上げる。

「……」

「スミレ、喧嘩すんなよ」

「もももん」

流石に暴力に訴えることはしないが、表情が雄弁に不本意を示している。何が不満なんだろう、普段微睡むポジションを取られてるからか?

「ももー?」

「もんもももー」

 声に反応する気配。遣霊の方もぱたぱたと手を動かしていたので地面に下ろす。すかさずスミレが回り込んできていつものポジションに収まった。ぎゅうと両腕が体に伸ばされる。

「ももんも」

「お前急にいなくなって…………誰だ?」

ややくすんだ銀髪、警戒するように細められた瞳。遣霊を連れている辺り三人目の職員、なんだろうか。

「皇志葉……です。最近、重戦闘区域に配属されました」

「は?セントラルの重戦闘区域に?」

「はい」

「聞いてない……いや、そもそも報告聞く前に飛び出したのは俺か……」

「もん」

「誰のせいだと思ってるんだ……」

「もんももー」

 自由な遣霊だな、と思ったがスミレも大概だったのを思い出して口には出さなかった。スミレは相変わらずぎゅうぎゅうと腕を伸ばしてへばりついている。

「兎に角報告を聞きに戻るか。邪魔して悪かったな」

「ももんもー」

「えっ」

「おいもも?」

「……」

「もももー」

遣霊……恐らくももと呼ばれている相手の遣霊が俺の服を引く。スミレはというと相変わらずの目つきでじっとももの方を見つめてから、イデアをおもむろに地面へと落とした。

「えっ、何だそれ……?」

「もっももー」

「あの……?」

「おいもも、せめて説明……は聞いても分からないから……いやとにかく他人を巻き込むんじゃない……!」

 意地でも地面には降りないスミレ、当然の様にイデアに乗って俺の服と相手の服を掴んでいるもも、おおよそ生物とは思えない挙動で水平移動しているイデア。もうどこから突っ込めば良いのか分からない。

「も?」

「(スッ)」

「もーも」

何やら遣霊同士で通じ合ってることだけは分かる。何を話しているのかはさっぱりだが、スミレがどこかを指さした辺り目的地があるんだろう。

「もももーい」

「ぴー!」

 ももが一声かければぱたぱたという軽い足音と共にうぱーが走ってきた。イデアを見て驚きの声を上げてからいそいそと乗り込み、そしてまた出発する。……なんだろう、遣霊間では意思疎通が出来てるんだろうか。引っ張られてる側は何一つ分かってないんだが。

「うーぴゃーぴー!」

「もーい」

「うぴゃーぴょー!」

「もももーい」

「……機嫌が良いな」

楽しそうだという認識は間違いじゃなかったらしい。スミレもさっきまでの不満そうな表情は鳴りを潜め、俺の服を掴んで少しだけゆらゆらと揺れている。

「うーぴゃ!」

「あ、リアム」

「あややや…………あやめか、帰ってきたのか」

「誤魔化せてないからな?まぁ帰ってきたのは事実なんだが。ただいま」

「おかえり」

 イデア停車。リアムさんのおかげでようやくこの人があやめ?という人だと知れる。リアムさんの後ろからひょっこりと入江が顔を出せば、あやめさんは分かりやすく動きを止めた。

「…………新入りか?そいつも?」

「え?ああはい。そこの皇の同期で俺の部下」

「部下!?」

「皇はアランの部下」

「アランの!?」

「どちらも遣霊持ち」

「待ってくれ何が起こってるんだ一体」

いきなり大量の情報を詰め込まれたあやめさんが困惑と混乱を表層に出して待ったをかけている。挨拶のタイミングを逃した入江がそろぉっと傍に寄ってきたが、意外にもレンは一緒じゃなかった。入江は足元でイデアに乗っている見知らぬ遣霊(もも)のことが気になるのか俺に目線だけで説明を訴えかけてくる。俺だって説明してほしい。

「もーい」

「あぁ、おかえりもも」

「ももんもー」

「マイペースに話を進めるな……アランはどこにいる」

「アランならもうそろそろ帰ってくると思う」

 この状況を説明するのかアランさん。大変だな……。

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