第十六話 誰かの代替品で、一人の存在で
「んん……」
「んー……」
映し出された映像を見て、揃って曖昧な声を漏らす。アランさん……の映像ではあるけれど、目的を達成するものではないというか。
「目の色が違う……から、これは管理人?」
「恐らくは……?でも、わざわざ管理人状態でサンプルを採る必要性……」
俺はその管理人状態なるものを詳しくは知らないけど、話によればほぼ無差別に周囲を制圧する狂乱状態、らしい。動揺恐怖歓喜警戒、全ての感情から発生する”揺らぎ”を察知して定められた静寂になるまで対処し続ける、そこに区別はない。
無反応に検査を受けているアランさん。たまにどろりとした流動的な敵意が顔をもたげるけれど、アランさんが僅かに動く度に体に悪そうな注射が打ち込まれる。夏音くんが嫌そうな顔をしているのが殊更にあの内容物の不穏具合を補強している。
「一応これも参考にはなる……のか?」
「どうでしょう……皇さんの話だと、意識に干渉されているようですし……」
「そうなんだよな……俺の知る限り、精神干渉系の特性を使ったとして、そんな根幹から揺らがせるには相当時間が掛かる筈なんだけど……」
「……そこに関しては、式野博士のせいかもしれません。あの人は、異常な程他者に慕われていましたから」
夏音くんのやけに確信めいた言葉に思わず視線を向けた。情報不足と判断したのか夏音くんは無言で別室へと移動し、使用形跡を確認してまた別の部屋へと移る。
「夏音くんにとって、式野博士はどんな人なんだ?」
「……正直に言うと、優しくはありました。だけど、その言葉や行動の裏には…………いつだってアランさんがいた。僕や兄弟達を見ているようで、その実ただの実験体としか思ってなかったような。……そう思うことは、ただの嫉妬だと言われてしまいますけれど」
優しいという認識と、酷い人だったという認識は共存する。特に夏音くんはクローンであるが故に苦悩もひとしおで、親同然の相手に嫌悪を向けるということすらきっと出来なかった。無垢な子供であることをきっと、研究部門の誰もが理解しなかった。
「いえ、僕の話はいいんです。さっきの映像から察するに……サンプルを採取されていたということは、どこかに記録が残っている筈……」
「実験記録?」
「はい」
記録、とはいったものの室内にそれらしき書類や機材はない。棚とか引き出しの中だろうか……そう思って周辺を歩き回る。なんとなく音が変な気がして少し気持ち悪かったけど、一か所だけやけに音が反響する場所があった。
「ん?」
「ノエルさん?」
「ここ……奥に空洞があるっぽいぞ?」
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