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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第六章 静寂の水底へ
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第十五話 音を探して・後編

 優しい声が、嫌いだった。

『███』

 喪うことが、溢れ落ちていく温もりが空しかった。それは強さで得られるものではないと知っていて、守れなかった全ては二度と戻らないと知っていて。

『ごめん』

 強くなりたかった、泣かせたくなかった、奪われたくなかった。全部全部中途半端で、結局この手は何一つ守ることなんて。見ないふりしても、感じなくなっても、声は止まない。

『どうか、────』

どうか。



「……ん」

 第四談話室。そう書かれた扉をくぐる。シンプルなソファーベッドと一人掛けソファにローテーブル、こじんまりとした室内は確かに実験室とは程遠いレイアウトだった。だが談話室というには少し違和感があって、……どちらかといえば独房のような。なんとなく複数人でたむろするには狭いような感覚を覚える。清潔感のあるシンプルな空間なのにうすら寒い、スミレも小さく眉を寄せて、催促するように俺の腕を叩いた。

「……取り敢えず一個使ってみるか」

「(こくこく)」

恐らくアランさんがいたのはソファーベッドの辺りだろうと考えて勾玉を一つ落とす。僅かな術式の膨張からの起動、仄かに光りながら勾玉は俺達の眼前で収集した映像を映し出す。

『すみません、部屋の用意が追い付いていなくて。一度素直に申請を出したら職権乱用だと怒られてしまいました』

 聞き覚えのない声。やがて、映像にアランさんともう一人……白衣を着た誰か、が姿を現す。後ろ姿であるため顔は確認出来ない。スミレが嫌そうな表情を浮かべて、勾玉をもう一つ投げた。

「あ」

「(むすっ)」

機嫌悪いなスミレ。投げられた二つ目の勾玉は先程の膨張とは違う動きを見せて、ノイズ混じりに起動する。不思議なことに映像は映し出されなかった。

 勾玉が二つになったからだろうか、映し出されている映像が時折不自然に歪み、明らかに連続性が欠けたものに変わる。……多分二つに記録を分けているのだとは思うが、何故わざわざスミレはそんなことをしたんだろう。

 ぐるぐると疑問が腹に溜まる感覚。スミレが再び主張するように腕を叩くので一旦思考は打ち切った。ぐったりとソファに座り込むアランさんだけが映っている映像。上着はなく、顔色も悪い。よく見れば呼吸も僅かに荒くて。…………一体何があったんだろう。

「これは────」

『忘れ、るな』


 言い聞かせるように二回、言葉に意味を持たせるように噛み締める。小さな声は、やけに耳に馴染んだ。

『お前は、俺は、楽になんてなれない。アラン・アンシエントに、幸福なんて存在しちゃいけない』

思わず伸ばした手は空を切った。引かれた境界線の先を、埋められない溝を、今確かに目の当たりにした。

『俺が憎むのは、俺自身だ』

――――――――映像は、そこで終わっている。

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