第十三話 あなたはだあれ?
「みゅ、み」
「大丈夫ですよみうさん。ただ眠っているだけです」
「みー」
「ちー?」
「み」
ふにふに、遣霊だろう子達が二人で頬を寄せ合ってアランのことを覗き込んでる。気を張ってたんだろうアランはあれだけ近くで囁かれてるのに夢の中。
「ねぇ東雲くん、ちょっといい?」
「はい」
最初、それこそ皇くんと一緒にやってきたときはちょっとだけ控えめというか、おどおどしている感じがあったんだけど、アランのことを”アレン”って呼んでからのこの人はずっと堂々としてる。まるで何かが変わったかのように、何かを決意したかのように。
「君って、重戦闘区域に来て長いの?」
「いいえ。私は今年度入った職員ですよ」
「え、それにしては……」
「色々ありまして、アレンとは面識があるんです」
「ふぅん……?」
面識。僕が初めて会った頃にはアランはもうアランって言ってたんだけどな。少なくともオーシャンに初めて来たときはもうアランはアランだった。
「アラン、あんまりお外……ええと一般区域?には行かないって聞いたよ?どこで会ったの?」
「――――ヘブンです」
「ヘブン?」
聞き馴染みのない単語に記憶を探る。支部……の名前じゃないよね、そういうエリアがあるのかな。でも僕は知らないなぁ……ひいらぎに聞けば分かるのかな、もしかしたら今は名前が変わったエリアとかなのかも。
東雲くん、あんまり詳しい話をするつもりはないのか穏やかな笑み浮かべて僕の言葉を待ってる。とあくんはそんな東雲くんの周りをくるくる回ったり、黒い……何だろうアレ、小さな塊を引っ張ってみたり。みうくんはアランの隣で安心したように目を閉じてる。
「……東雲くんは、今年度入った職員なんだよね?」
「はい」
「でも、アレンと面識があって……一般区域じゃないところで出会ったの?」
「はい」
「……東雲くん、アランに「この姿じゃなかった」って言ってた。アランも、東雲くんのこと知らない、覚えてないみたいだった。……………………きみは、誰?」
「――――東雲ですよ。今も昔も」
微かな身動きに言葉が止まる。流れる様に意識を覚醒させたアランさんが怪異の襲来を告げた。どんな状況下でも職員であることに違いはない、少々のやり取りの後朱鳥が僕の方へ声を掛けて来る。
「ひいらぎー!ちょっと怪異倒してくる!」
「分かった。気を付けて」
「うん!」
慌ただしく部屋から出て行った三人と遣霊二人を見送り、静かに思考を回す。……ヘブン、そう東雲さんは言った。初期に設立された支部の一つ、そして唯一失われた支部、その名前を。
「あの支部の生き残りは――――いなかったはず」
僕はあの頃オーシャンと朱鳥を守ることで精いっぱいだった。一気に支部を増やして、人を増やした弊害で滞る仕事、生意気なのは新人もベテランも関係なくて、不正も問題も山積みだった。
ヘブンが何故失われたのかは誰も知らない。そもそも精神干渉をしてくる怪異を担当していた支部だから強い怪異に襲われ壊滅したのかもしれないし、はたまた腐敗が酷すぎて解体せざるを得なかったのかもしれない。何せ対処に当たったのがアラン職員ただ一人なのだ、本人が口を開かない故に真相など分かりようもない。
「……東雲泰誠、か」
あの職員は、一体何なのだろう。
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