第十二話 想定の外
「猫」
「こっちの方が動きやすいんだぞ」
……何だかおねこを思い出すな。黒猫な上にひょいと肩に乗ってきたその重みも似ている。スミレも同じことを考えたのか、イデアをせっせとポケットに詰め込んでいた。
「取り敢えずノエルに色々術式を預けた。皇にも解析記録用の勾玉渡しとっから、怪しい場所で投げてくれ。時間がなくて五つしか作れてねぇけど」
「助かります」
解析してくれる上に記録してくれるなら五つで充分だ。解析すべき相手は分かっているから余計に。問題があるとすれば俺の方はその式野、と呼ばれる職員の顔も知らない訳だが……。
「雪代さん」
「あれっ夏音!?」
「何でここに?」
静かに夏音が室内へ入ってきたことで雪代さんとノエルさんが驚きの声を上げる。夏音の表情は何かを決意したようなもので、事情は分からないまでも二人の表情も硬くなる。
「……式野博士は僕らを作った人なんだ。だから、僕が案内するよ」
「正気か?」
「ただ守られるだけなんて納得いかない」
『経験則……とまではいきませんけど、恐らくただ守られることをよしとする性格ではなさそうなので……』
以前アランさんが言っていた発言は的を射ていた。やはり同じ存在であるが故の確信だったのだろうか、アランさんも割と強情なところはあったし。ふんふんと何故か訳知り顔で頷いているスミレを無言でつつく。お前も大概に強情だぞ。
「……一応お前リアムから戦闘訓練受けてるんだよな?許可は?」
「下りてます。寧ろ徹底的にやれ、と」
「あぁ駄目だ今のリアムに良識とかある訳なかった」
「お兄さんの一大事ですもんね……」
一番夏音を止められたであろうリアムさんが推奨したとなるともうどうしようもない。幸い研究部門出身だった訳だから多少の土地勘などはあるだろうから戦力にはなるが、それはそれである。
「じゃあお前には少し防御術式と……そうだな、強めに認識阻害掛けとく。…………あとさ、まさかとは思うが……」
「(ふんす)」
「……いやマジか」
「?」
雪代さんがスミレと謎のやりとりを交わし、何故かがっくりと項垂れている。流石にスミレだって単独で潜入はしないだろうとは思っているけれど。
「皇、スミレも同伴するってよ」
「えっ」
「(ふんふん)」
「いやそいつは寧ろ大丈夫だとは思うが、いざとなりゃイデアぶん投げれば大体どうにかなりそうな気もするからそんな心配するようなことじゃないと思うが。……まぁ頑張れ」
「いや困りますけど」
「こっちだって置いてかれたスミレがイデアを研究部門に解き放つ可能性を考慮しながらリアムと青藍さん抑えるのは無理だよ」
「スミレ……そんなことするつもりだったのか」
「(きょとん)」
あ、これは確かにとぼけてる表情だ。しかもわざわざ対処に苦労するであろうイデアを放逐する可能性がある辺り……うん、やっぱりこいつも目的のためなら手段を選ばなさすぎる。
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