第十一話 闇夜の松明
「あ、皇くんこっちこっち~」
「シンさん」
ギリギリ重戦闘区域とはいえないエリアでシンさんと合流した。ひらひらと手を振るこの人が神出鬼没であることは理解しているけれど。……青藍さん達のことはいいんだろうか。
「取り敢えずこっち。ゆっきーが色々準備してるのと……流石にね、多少情報は必要だと思ってさ」
「情報」
「うん。何も分からない状態で向かう訳にはいかないでしょ?」
そういうものだろうか。俺とスミレは揃って首こそ傾けなかったが頷きもしなかった。
「アランさん、アレンっていう名前で反応しました」
「…………そっか。そっかぁ……」
分かってはいたけど大分きつい情報が出たね。アレンっていうのはアランの本当の名前で……普段は絶対に呼べない、少なくとも本人の意思で伏せている名だったりする。おかしいな、オーシャンの職員でアレンの名前を知ってる子はいないはずなんだけど……。
「なんとなく察しはついてると思うけど、アレンっていうのはアランの本当の名前だよ。かつて……それこそ、春音くんのベースになった職員がいた時代には名乗ってたんだ」
「……その職員は、アランさんにとって……?」
「先輩で、同僚で、家族だった」
皇君は冷静に俺の言葉を聞いて情報を整理する。本当は自分達で開示したかったのかも知れないけど、もう流石に誤魔化せない。
「とある事件があってね。その子は姿を消したんだ。その子を止めたくて、取り戻したくて、選択を間違えた子も同時期に」
「……」
「加害者も被害者も重戦闘区域の職員だった。残されたのはまだ幼かった二人の職員と、表向き存在の認められない俺達だけ。だから……アレンは、研究部門と取引をした」
本当なら俺達が矢面に立つべきだった。遺されたのは子供達だけだと知っていたのに、ジャックがわざわざ姿を消した理由を知っていた筈なのに。
「アレンが名前を変えたのもその辺りが理由なんだけど……まぁこの辺りは今度ね。兎に角、アレンを担当してる博士っていうのは大体一人しかいないはずで……その人、式野って言うんだよね」
「式野?」
「うん。研究部門の責任者の一人で、主に血統関連を研究してるとかなんとか。詳しいことは分からないけど……あの博士、何回か調査してみたんだけど何も分からないんだ」
「えっ」
しかも俺じゃなくてジャックが調べて、だ。絶対何か……情報誤認系の特性か魔導具を使っているとは思うんだよね。でもそういうの看破出来るジャックが調べて何も出てこないっての、不穏通り越して不気味。
「だからゴメン、俺達は式野博士がどういう人なのかも分かんないしどんな脅威なのかも分かんない。ただ、間違いなくあの人がアレンに関わってると思うから――――」
「はい。大丈夫です」
静かな、まるで日常会話と見間違いそうなほど淡々としたトーンに一瞬息を飲んだ。思わず皇君の瞳を覗き込む。緊張も高揚も、何も感じない翡翠の瞳はそれでも尚底知れない光を宿している。
「必ず、情報を掴んで来ます」
……あぁ、やっぱりこの子が重戦闘区域に来てくれてよかった。きっと道は違えたままなのに、本人はまだ藻掻いている最中なのに。
「うん。お願いね」
こんなにも光は、強くて暖かいんだ。