第九話 呼ばれた意味を・後編
その眼差しを、その言葉を。どうしようもなくこの場にいる意味を知ってしまった。かつて願われ託された幼子を守れなかったという事実を。それでも尚、まだ願いを委ねてもらえるほどの信用はあるのだと。
「アレン」
「ん。――――これは今生の記憶か、ええと……」
「みみ、み」
「何だ、違うのか」
視線はあくまでも凪いでいる。きっとあの時のことをこの人は覚えている筈もないし、この邂逅だって、後には残らない。その証拠に視線は逸らされ、淡々とした声音で話は本題へと戻される。
「まぁいいか。今生の……アレンの意識が意図的に歪められているんだ、致死量ならば本能が拒絶するが、カンタレラを防ぐ術はそうないだろう?」
「?」
「僅かな抵抗でこの身は俺が掌握した、だがこの状況はそう長く続かない。必要なのは”何”を目的としたものだったのかだ。資料でも言質でもいい、何を言われ、どんな音を聞いたのか。伏せられた情報を探る必要がある」
「成程」
言葉を紡いでいる最中でも存在は揺らぎ、時間がないことを物語る。みうさんだけでは足りない、皇さんでは届かない。ならば、俺は俺が出来ることを。
「皇さん」
「ん」
「私がアレンの延命処置をします。皇さんはセントラルへ戻り、情報を探って頂けますか?」
「分かった。イデアは……」
「(ぶんぶんぶんぶん)」
「(ぶんぶんぶんぶん)」
「……小さいのだけ残してく。スミレも、それでいいか?」
「(こくこく)」
大きい方のイデアさんがスミレさんによって回収され、代わりに小さな塊である方のイデアさんが意気揚々ととあの手に収まる。皇さんの信用が有難かった、理解はせずともやるべきことを見失わないその冷静さが何よりも大切だった。
「そういうことだから、俺は一旦席を外します」
「分かりました。出口まで送りましょう」
「ええと……僕はまだ特性解除しない方がいいんだよね?」
「ああ。これも一種の遅延だからな」
皇さんとスミレさんがひいらぎさんに促されるまま退室し、俺はとあを抱えたままアレンの傍へ寄る。流石に皇さんの前では気を張っていたんだろう、少しだけ傾いだ身体にそっと手を伸ばした。
「……悪いな」
「いいえ。私もまた、護りきることが出来ませんでしたから」
身体を引き寄せ、少しでも楽になるようにとリラックスさせる。現状出来ることがないからか思考を回すだけの余裕が出来たんだろう、俺の言葉を吟味するように視線が向けられる。
「……お前は、俺に会ったことがあるのか?」
「ええ。私もまた、この姿ではありませんでしたけど」
記憶をまさぐるように瞳が揺れる。きっと思い出すことなんて出来ないのに、貴方の中に俺がいる筈もないのに、その不器用な優しさが何よりも暖かかった。
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