第七話 呼ばれた意味を・前編
気配が揺らいだのは一瞬だった。スミレさんがもちもちと頬を撫で回しているのは抑制のためだろう、みうさんもとあも分かっていて反応しない。静かに隣に立てば、皇さんも何もなかったかのように口を開く。
「重戦闘区域から来ました。皇志葉です、こっちはスミレ」
「同じく東雲泰誠です。この子逹はとあとみうさんです」
「わぁ……!僕は木本朱鳥です、よろしくねぇ」
ふわふわとした笑みを浮かべる朱鳥さん。相変わらず背後には謎の……イデアさんのような物質が鎮座しているけれど、特に動いたりはしなかった。イデアさんはというとみうさんととあが落ちないようにという配慮なのか、こちらも特に動いたりはしない。
「じゃあ早速本題に入るね。……ええと、元はといえばアランが────じゃなかった、アンシエントさん?が研究部門で虐げられてる可能性がある、みたいな理由でオーシャンが救援要請を出したと思うんだけど」
「そうですね。アランさんが研究部門にて何やら非人道的な扱いを受けている可能性があったので、保護するために協力していただきました」
朱鳥さんの発言を肯定するように言葉を返す。朱鳥さんは同年代のようにも見えるが、アランさんと親しいのだろうか。少しばかり口調が幼いような気もするけれど、案外俺達よりも先輩なのかもしれない。
「うん。それで、そのときにね?オーシャンでもちょっと怪異が多かったの。だからアランはそのまま戦闘に参加して……おかしいって気付いたのは、その後だった」
そこまで話してから、朱鳥さんは自然な動きで視線を背後へと向ける。しゅるしゅると黒い物質が縮小していき、半分程の大きさになったところで中にいたのであろうアランさんが顕になる。
「みー!」
「っ」
「あ、駄目だよ近付いちゃ。……あのね、今のアラン、とっても怖いの。アランが言うには、このままじゃみんな殺しちゃうから、手遅れになる前にしよう?とたいせー?を呼んでって言ったんだ」
「俺達を……」
うつむいているアランさんの表情は見えない。皇さんの妙な動揺も気になるが、何故手遅れになる前にという理由で俺達を呼んだのか。ただ部下だからという理由なのかも知れないし、俺達じゃなければいけない理由があるのかもしれない。すぐにでも駆け寄りたいのだろうけれど、みうさんはきゅ、と手を握りしめたまま動かなかった。
皇さんは普段と同じように静かな瞳でアランさんを映している。俺には分からない何かを見ているのかもしれないし、ただ純粋に観察しているのかもしれない。暫しの沈黙の後、皇さんは朱鳥さんの方に視線だけを向ける。
「……管理人なら俺は影響を受けない。から、近付かせてほしい」
「えぇ……?ううん……でもそうだよね、きみたちは呼ばれてるんだし、近付かないと何も分かんないもんね…………。じゃあ出来るだけ範囲絞るよ?」
「スミレ、ちょっと待ってろ」
「(こくり)」
スミレさんを俺に預けた皇さんが、ゆっくりとした足取りでアランさんと視線を合わせるために屈んだ姿を、俺はただ見ていることしか出来なかった。
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