第二話 引かれる手
「皇さん!」
「東雲……」
程なくして医務室に駆け込んできたのは東雲だった。余程急いできたのだろう、上着は着ていないのにマントだけ着けている。かくいう俺だって上着は着ていないから今更か。
「みうさんは……」
「今は少し落ち着いてる。けど……熱出して泣きじゃくってた」
「っ!!」
東雲だって遣霊の不調が何を示しているかは知っていたらしい。鋭く息を飲んで、いっそ東雲の方が泣きそうな表情でみうの頬に触れる。
「どうして……あの人は、また……」
「……」
「たぁてぇ……」
東雲のことを心配そうに見つめるとあ。スミレも無表情ながら東雲のことを静かに見つめている。ふと、熱に浮かされ潤んだみうの瞳が東雲を映し、アランさんを思わせるような言葉を音のないまま吐き出す。
「”大丈夫ですか”……」
「……」
無言で俺を叩くスミレ。思わず口に出していたらしい……いやでも多分スミレは俺がこういうことを出来ることくらい知ってただろ、もしかして東雲に配慮しろと言われてるのか?
「藍沢先生、状況はっ……」
「入江か。……正直あまりよくはない、みうの錯乱具合から察するに、管理人を作られたときと同じかそれ以上の問題が起こってるとみるべきだろうな」
「っ……今すぐ連れ戻せないんですか?」
「”弱み”ととられるのも、みうがアランと繋がってると把握されるのも分が悪い」
「……じゃあ、外部から拉致する、というのは?」
「それこそ愚策だな。結局ここに戻って来るんだったら、内部犯であることは確定だろ」
それもそうか。アランさんは定期的に研究部門に行く必要があると言っていた、つまり今回を切り抜けても根本的な解決が為されなければ何度だって同じ危機に晒される。みうの存在は抑止ではなく弱みとして付け込まれる可能性すら出て来てしまう。
「でも、このまま黙っている訳には……」
「ああ。そもそも青藍とリアムが飛び出しかねないからな。……さてどうするべきか…………」
……そういえばさっき、リアムさんと青藍さんを何としてでも止めろ、みたいな発言が藍沢先生から飛んでたな。あれは二人が研究部門に突撃しないようにという意味だったのか。流石にそんなことはしないと思うが……いやでもあの迅速な指示を見るに、前科があるんだろうか。
「例えば、アランさんしか出られない案件とかだったら研究部門も解放せざるを得ませんよね?」
「でもリアムさんとアランさんって同じくらいの強さって言ってませんでした?」
「寧ろリアムさんの方が強いっていう認識されてたよね確か。うーん……じゃあ中戦闘区域辺りのいざこざは?」
「故意に起こすのは無理があるだろ」
宇月の提案を基に俺も思考を回す。アランさんしか対応出来ない、且つ俺達が引き起こせる事象……。
「……あ。水中戦……」
そういえば、リアムさんは水中戦禁止されてなかったか?
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