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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第六章 静寂の水底へ
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第一話 不音

 優しい声が嫌いだった。

 思考が溶けていくのが、言葉を聞き続けることが苦痛だった。そこに付随するものが検査と実験で、倦怠感も軽い酩酊も嫌いだったから余計に。

「さぁ、楽にして下さい」

 眠るな、従うな、意識を落とすな。そう自分に言い聞かせて何度も何度も目を閉じた。どうしたって無駄だと知っていて、どうやっても抗えないと知っていて。

「全て、────」

 優しい声が、嫌いだった。




「っ────」

 何か、嫌な夢を見た気がした。吐いた息が荒く空気を乱す、やけにはっきりと覚めた脳がさっきまであった眠気を飛ばす。意図的に吐いた息の音がやけに大きかった。

「……」

スミレは相変わらず腹の上で眠っている。起こすのも忍びないが、何となく寝返りを打とうとして横を向いた。その拍子に室内がはっきりと目に入って────思わず飛び起きる。

「っみう!?」

 地面に散らばる白銀、いつのまに、どうやってという疑問は様子のおかしさに流された。スミレも目覚めたと同時に状況把握、迅速にイデアを伸ばしてみうをくるむ様に巻き付ける。地面に蹲るみうに触れれば……少し冷えた指先に、溢れんばかりの熱が譲られる。

「熱……!」

以前青藍さんが「遣霊は保護者の体調を反映する」といっていた。つまりアランさんに何かあって、その結果みうが火傷しそうなほどの高熱を出しているということになる。……確か今アランさんは研究部門に行っていた筈だが。

「とにかく、藍沢先生……!」

「ん……みゃ……みー…………!」

 ぼろぼろと、抱え上げたみうが大粒の涙を溢し始めたことで更に危機感が加速する。スミレがすかさず涙をぬぐい、あやすように背を撫でているがみうが泣き止む様子はない。

「スミレも掴まれ、藍沢先生のところに走る……!」

「(こくっ)」

みうに負担は掛けないように、けれど出来る限り速く医務室へと向かう。スミレが分裂した方のイデアを先行させていたのは見えていた。

「藍沢先生!」

「っ宇月!」

「はい!」

 にわかに慌ただしくなる室内。迅速に冷やされ、診察されるみうを俺とスミレは黙ってみていることしか出来ない。……どうして、と行く宛のないざわめきが胸に落ちていった。

「皇、何があった」

「分かりません。たまたま目が覚めたら、みうが俺の室内でうずくまってて……」

「……ああくそ、嫌な予感しかしない」

「(こくこく)」

熱に浮かされているからなのか、それともそれ以外の要因か。みうは未だ泣きながら近くにいたスミレの服を掴んでいた。小さな手が怪我をしないようにスミレと俺がそれぞれ縋りつく手を撫でる。

「シン!今すぐ青藍とリアムを止めろ、暴れる前にだ!」

「なぁすん!」

「ああそうだみうが熱出してるんだよ!」

 藍沢先生の声が響く。喧騒は次第に、重戦闘区域へと広がっていた。

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