第三話 苦しくなるほど暖かく
「うぴぷ?」
「?」
「みゅ」
「んなん!」
わいわいやってる声。今日は入江とアランが一緒に任務行ってるんだっけ。どうせ通り道だしと顔を覗かせる。
小動物四人で集まってお絵かきタイム。リアムはまぁいないとして、意外と皇も不在だった。暇さえあれば引っ付いてるイメージあったんだけどな、流石に鍛練して離れられるようになったのかな。イデアはクレヨンかじってるけど。
「う、ぴゃーぴゅ!!」
「みゃーん」
「(フンス)」
「だんなな!」
何してるんだろう。丁寧に畳んでるみうとか、多分持ち運ぶためにくるくると丸めてるレンは辛うじて分かる。うぱーは紙を回してるし……スミレに至ってはイデアに収納してる……?イデア、お前シンの同類なの?
「う……!ぴゅ!!うぴゅぴゅ!」
「み?」
「う、う、う、う!うぴょー!」
「なんな?」
「ぴょん!」
「みぃ……みゅん?」
「ぴゅー……うぴゅ?」
「……」
何話してるんだろうアレ。うぱーがそれぞれを指してたのは分かるけど……。そもそもあれ相互理解出来てるのかな、どうしよう全員適当に喋ってたら。どうもこうもないけど。
スミレが黙ってさらさらと何か描いてる。流石にここからじゃ見えないけど、周囲の反応的に多分、スミレが描くのは意外、みたいなものかな。興味をそそられて一歩踏み出す。
「オーイ」
呼び声。ワカバの声なら優先順位は何差し置いても一位。踏み出した足を戻してすぐに声のする方へと向かった。
「青藍、リアムから聞いたんだが」
「じゃあ良いじゃん。そのまんまの意味だよ」
「……シンと取引でもした?」
「誰がするんだよ誰が」
アイツと取引とか絶対碌でもないじゃん。眉を潜めて不快を示せばアランもあっさり引き下がる。ただ……まぁ言いたいことはちょっと分かる。悔しいけどアイツも俺とおんなじ判断するだろうからね。
「俺とシンが同じこと言うんならそういうことだよ。アランだって気付いてるでしょ」
「……まさかどちらにも言われるとは」
少しだけ目を細めて困惑、みたいな表情してるけどこっちだってあんまり似てるとか自覚したくないよ。腹は立つけどここで別の意見を出すのはナンセンスだし。
「ぴゅー!?うーぴゃーぴー!!」
「みゅ……!」
「ななーん!」
何か騒がしい。真っ先に声に反応したアランは小さいのが複数いるのに対して疑問符を浮かべる。うぱーが走ってきてぐいぐいと手を引っ張れば、レンを抱えたみうも控えめに裾引っ張ってるし。
「み、みゅー」
「ああ、皆待ってるんだ?見せたいもの?」
「みゅ」
「分かった。じゃあ行こうか」
皆、というからには多分リアムと入江はいるんだろう。皇はどうだろうな、スミレはいないけど”皆”に入ってないとは考えにくい。じゃあ多分他の面子を見張ってるんだろう、リアムとかすぐどっか行きそうだし。
なんとなく暇だからついていく。走り出そうとするうぱーはちゃんとアランにとっ捕まってるというか、若干浮いてる。転ばないなら良いけど。バタ足が空回りしてるけど本人気付いてなさそう。
「あ、アランさんと……」
「「チェンジで」」
「即答……」
談話室にシンまでいた。反射的に言葉が被ったのはもうしょうがないじゃん、別に出会ったら即攻撃とまではいかないけど、好き好んで一緒にいたいとは絶対に思ってないよ。
スミレは案の定皇の膝上にいた。イデアは黒い球体と化してるけど、もうちょっと生物らしい形態ないんだろうかこれ。パッと見ボールだよ。
「うぴゅ!」
「み。みー」
「あぁお絵描き……上手に描けてるね」
「うぱー、お前絵心あったのか」
「ぴょ!?」
ひょいとアランが手渡されたみうの絵を覗き込めば、子供らしいタッチの……アランと思しき人が描かれてるのは理解した。いや上手い方だよ実際、他三人が上手すぎるだけで。
「これ本当にクレヨン?レンくんどうやってこんな細い線引いてるの?」
「なんななな」
「(ㇲッ)」
「イデアくん、君鉛筆削りかなにか???」
クレヨンの先端を躊躇なくイデアに差し込むと、何故か先端が尖って出て来る。……何でだよ、スミレもさも当然、みたいな表情してるけどもうちょっと疑問に持っても良いだろ流石に。シンが引くレベルは大分やばいよ。
「ぴょぴ、ぴゅ!」
「んなんな!」
「みゅー」
「(ゴソゴソ)」
「お前イデアをカバンか何かだと思ってないか?」
皇の突っ込みにも我関せず。スミレがひょいとイデアから出してきた紙はアランが持ってるものより大きい。みうが反対側の端を持って、二人掛かりで紙を広げれば、……全員が息を呑んだ。
四人で描いたんだろう、それは良い。主人達と自分達を描いたんだろう、それも良い。……問題は、それ以外だ。
例えば、アランの隣にはふにゃふにゃと笑っているみうともう一人、金髪の青年と思しき人物が描かれている。リアムの傍にもうぱーと赤髪の青年が描かれている。……今この重戦闘区域内に該当の人物はいない、うぱーもみうも、描かれている人物のことは知らないはずだ。入江と皇も同じだろう。
「こ、れは……」
「……華蓮」
言葉を失っているアランと、はらはらと涙が零れた入江。皇の反応は見えない、リアムは静かに目を閉じ、そうしてからうぱーの頭を数回撫でた。
「うぴゅ?」
「暖かな絵だな」
「ぴ!」
リアムはそれ以上言葉を発しなかった。精巧に描かれているが故に勘違いだと言えない、描いたのが自分達の遣霊であるが故に、この絵が哀しい絵だとは誰も認めない。
「……みう、ありがとうございます」
「みゅ……」
「いえ、リアムの言う通り暖かい絵。暖かくて、目の前が曇ってしまいそうなくらい……だから、決して悲しくて泣いてるわけじゃないんだ」
慈愛を持って柔らかに。……あぁ、何かを隠すときに相手の目尻を触る癖も、元々はコイツじゃなかったのに。
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