第十二話 かつての子供に寄り添うように
「なんななー!」
「あ、レン!と……お兄さん!」
「こんにちは春音くん」
「なんな!」
春音くんからもう一度会いたいという話が来たという話を、藍沢先生から受け取ってやってきたのだが……意外にも本当に春音くんしかいなかった。流石に四六時中一緒にいるとは思っていないけれど、少しは信頼されているように思えて頬が緩む。
レンが嬉しそうにしているから近付いて春音くんへと移動させる。春音くんも心得たように両手を広げてくれるからレンもいそいそと手の上に乗って、心底楽しそうな笑みを浮かべていた。可愛いね。
「……ふふ、やっぱりちっちゃい」
「なん!」
「暖かいね」
「なんな?」
ぽわぽわと周囲に花が飛んでそうなほど癒される空間を目に焼きつける。レンはいつだって可愛いけど、レンのことが大好きな相手と一緒にいるときのレンはいつにも増して可愛い。可愛いと可愛いが渋滞してる。
「仲良しだねレン」
「なん!」
「……あの、入江……お兄さん」
「あ、綾華でいいよ?敬語もいらない」
「じゃあ綾華さん。……綾華さんは、確かあの黄色い髪の人……の、部下、だよね?」
「黄色……リアムさんのことかな、そうだよ」
一瞬誰のことだろうと思ったけど、初めて会ったときに一緒にいたのがリアムさんと大雅だったし、その場合リアムさんの方だろうと判断して頷く。
「その……リアムさん、強いよな?」
「うん。強いよ」
「……リアムさんって、夏音の……アランさんとは戦い方が違うって聞いた」
「戦い方……」
リアムさんが本気で戦ったことも、怪異以外と戦っている姿を見たこともないので確信を持つには少し弱いが、少なくともその時々に応じて適切な武器を使い戦っている感じはある。アランさんはどちらかというと長物を好んで使っているようなので、違うと言われればそうかもしれない。少なくとも戦闘スタイルは少し違うように感じる。
「まぁ確かに……?」
「なん」
「東雲さんが言うには、リアムさんの方が……ええと、テンプレートに沿ってる?って」
「あぁ、それはそうかも」
一応ではあるが、戦い方のテンプレートというのは存在する。皇やアランさんは独自のスタイルがあるが、リアムさんはギリギリそのテンプレートに沿っていると言えなくもない。大雅の戦い方は恐らく禅譲家直伝だろうし。
「夏音は……兄さんは、アランさんになるようにって育てられてたけど、別にあの戦い方は得意じゃない」
「そうなの?」
「……うん」
アランさんの戦い方はかなり特殊な部類に入るだろう、あれをクローンだからといって模倣させるのは……確かにあまり得策じゃない。実際夏音くんが上手く実力を発揮出来ないのはその辺りも関係してそうだ。
直に対峙した青藍さんから、夏音くんはそこまで強者ではないと聞いている。その原因が体系化出来ない特殊な戦闘技法を模倣しようとしていた結果なのだとしたら、普通に戦えるようになったら伸びそうな気配もあるな。
「春音くんはつまり……リアムさんに夏音くんの戦い方を見てほしいの?」
「……夏音が、戦いを辞められないなら」
あぁそっか、遣霊も生まれてしまったし、これから先を生き延びるためにも夏音くんは間違いなく戦い続けるしかない。だからこそ……春音くんは、夏音くんが強くなる可能性を潰したくないんだ。
「だんな」
「そうだねレン。……俺の方からリアムさんに話してみるよ」
「本当!?」
「うん。強くなりたいって思う気持ちは、俺も覚えがあるからさ」
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