第十話 雪解けを望む
「ゆ!!」
「っ……!?」
冬音より大きくて、けれど秋音よりは小さな子。小さな指が皇さんを指している。不自然な位置で静止した皇さんを、オリジナルが声を掛けてから抱え上げる。
「手荒な真似となりましたが……遣霊成立です。お疲れ様でした」
「ゆん?」
「固有能力は事象の凍結ですね。貴方が望めば、この子は兄弟達に危害を加える指示のみ凍結、も可能だと思いますよ」
「きゅ!」
コクコクと頷く子。……遣霊の、成立、それに事象の凍結。……今の発言からするとわざと遣霊が成立するように仕向けた、ということだろうか。
「こんの馬鹿……!」
「青藍、出来れば説明を任せたいんだが」
「俺も説明してほしいんだけど!?」
「……じゃあ、志葉を宇月に預けるまで待ってくれ」
本当に何してんだアイツ。スミレは皇についてったけど、そもそも置いていかれてたイデアは、何か俺から派生したらしい末っ子に引き伸ばされてる。……遣霊連れて合流することになった長男に弟達も東雲も驚いてたけど、別に偏見もなければ件の遣霊も非常に人懐っこい性格だったおかげでアランが来る前に馴染んでいた。
「それで?何がしたかったのっていうか……何であんな無茶したの」
「無茶はしてないが」
皇の特性を引きずり出して戦わせるとか無茶以外の何物でもないでしょ。そう思ったけれどよく考えたらアランにとって皇は特性を起動しててもしてなくても脅威にならないんだった。無断だったし後で怒られるんじゃないだろうか。
「あの、アランさんは今日ここに来る予定は……」
「はい。なかったんですけど、頼まれまして」
「頼まれ……?」
「早急に安定させないと、自壊する。と」
自壊。そんな表現するやつ誰だろう……アランは答え合わせをする気はないらしい。本人は初対面だっただろうから本当に誰かしらに頼まれたとみる方が自然だけれど、自壊ってなんのこと?
東雲はアランの言葉にちょくちょく問いを挟みながら情報を引き出してる。その膝上に大人しく座ってる三男……やっぱ似てるなこの二人。
「この子……夏音さんは遣霊が出現したことで一定の安定性を得た、と?」
「そうですね。加えて東雲さんの事例同様、遣霊出現による緊急保護並びに引き抜きが可能となりました。経緯に関してはノエルさんの方に依頼を出して外で遣霊を連れていた存在がいたので引き取った、ということにしようかと」
「成程……」
「ゆーん!」
「とぉ!」
「夏音さん、この子の名前は?」
「え、名前……」
とあと談笑してる遣霊に、長男は視線を向けて少し沈黙。末っ子はともかく次男と三男は心配そうに長男のことをみているけれど……長男もまだ動揺が勝るのか、気付いていないようだった。
「……ゆき」
「ゆ?」
「ゆき、おいで」
「ゆん!」
声を掛けられればそれが”名前”だと認識して嬉しそうに駆け寄って来る。成程上手いな、多分どんな名前でも嬉々として駆け寄っては来るのだろうけど、四季の名を模した兄弟の遣霊が四季に携わる名前な辺りが。
「ゆきくんですか。良いですね」
「ゆきゅ!」
椅子に座っている長男に抱き着くゆき。……そんなゆきに応対する長男の表情は、戦う前に比べれば随分と落ち着いていたのが、酷く視界にこびりついた。
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