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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第五章 巡る四季に想いを馳せて
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第九話 ぼくはずっと

 何もかも放り出したかった。生まれた時からずっと、オリジナルと比較されることが嫌だった。春音より先に目覚めたから()といわれることも、ずっとざらついている腹の裡をまさぐられることも。

『兄さん』

 何故小さな生き物がぼくの後ろをついて来るのか。どうしてぼく達以外の子は目覚めないのか。わざわざこの姿を維持する意味も分からなかったし、有象無象を生かす意味はもっと分からなかった。管理人()はずっと全部殺せと囁いている。何もかも正しくない、誰も正しくないって。

『にいさん』

 丸まって震える子供は手を繋ぐと震えず眠る。ずっと虚勢を張っている子供は頭を撫でると安堵したように緊張を解く。……何をせずとも死にゆく存在だ、何もなくとも、ただ消えゆくだけの。

『にーさ』

 ぼくになる……だなんて戯言、一笑に付してしまってもよかった。無茶だと、無意味だと断じればあの子は自己崩壊でいなくなると知っていた。ぼくらの中でも殊更不安定な生き物だ、定義が違うのに、そうあれかしと望まれ収められた。ただそれだけで生き延びることなんて、それだけで生きていくことは無謀だと理解していたのに。

 ぼくより弱い子達。ぼくを兄と呼んで、傍にいて笑ってくれる子供達。ぼくがきみ達に渡せるものなんて何もないのに、きみ達がぼくに渡せるものなんて何もないのに。ぼくはきみ達が生きていてくれるだけで、沢山の大切なものを貰った気分になるんだ。

『本当は死にたくないのでしょう?』

 否定は出来ない。だって死んでしまえばあの冷たい世界に戻される。何もない世界が嫌な訳じゃなかったけれど、……今はもう、暖かな温もりを知ってしまった。

 かつて死にたかったのは、生きている意味を持っていなかったから。何故作られたのかも知らないまま、自己を把握することも出来ないまま、ただひたすらに終わりたかった。

 今死にたいと願っていたのは、いつか必ず訪れるであろう研究員からの指示が怖かったから。自分が手に掛けたという自覚すらないまま、兄弟達が骸になってしまう可能性(悪夢)を何度も何度も見てしまったから。ぼくはもうどうしようもなく彼らを守りたいと願っていて、その願いは管理人()がいる限り叶わないと知っていた。

『ここで違えたら、お前はずっと苦しいままだ』

 でも、ここで違えなきゃ、ぼくはずっとそのいつかに怯えたまま生きることになるんだよ。それなら、苦しい方がずっとマシだと、その苦しみにあの子達は関わってないと。

『闇の中でも、全ての感覚がなくなっても』

そんな優しい未来は、なかった。なかったんだよ、皇さん。ぼくらにはぼくらしかいなくて、今更手を伸ばされたところで、遅いんだ。

「…………あぁ、でも」

毒が回る前だったら、罪を犯してしまう前だったなら。


「しにたく、なかったな……」


 小さな手は、暖かかったから。

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