第七話 交わすものが何であれ・後編
「っそれでも!ぼくはこの選択を正す方法を知らない!!」
叫ぶような言葉と共に、正面から激突。寸分の狂いなく向けられる瞳の強さがそのままアランも認める「皇志葉」としての異常性に現れている。
俺やシンの異常性は時代の差異だ。アランとリアムの異常性は根幹の差異だ。色んな人間がいて、色んな存在がいて、それでも尚馴染むことの出来ない存在を俺達は異常という、異端として爪弾く。……そしてここはその終着点のひとつ、故におかしいわけではない、のだが。
「……お前のソレ、何を由来としてるんだろうね」
勿論生来の可能性はある。生まれが分からず、あのウォルクが拾い上げたというのならただの子供だと判断する方が難しい。追い打ちをかけるように連れる遣霊すら異常性を持ってると来た。
「あいつは、猛毒を孕んだ薬みたいなやつだよね」
「……?」
「寄り添うとか受け止めるじゃなくて、痛みを伴うけど確かに誰かを救う光ってこと」
スミレは何言ってんだコイツみたいな表情を浮かべてるけど…………いや自覚ないのかよ、あんだけあっちこっち関わりまくっておいて?嘘でしょ。
均衡が崩れれば経験差というのは如実に表れる。とはいえ多分皇は受け身に回る戦い方に慣れておらず、今行っているのも攻撃を全て攻撃で相殺しているだけだ。
「ここで違えなきゃいつかぼくはあの子達を傷付ける!あそこから逃げたって、この身がある限りあの子達への罪は消えない……っ!」
……皇は知らないだろうけど、夏音は研究部門にいたときに他の兄弟達の特性をその身に植え付けられていた。勿論そんなことをすれば本人も、兄弟達も拒否反応や無理な抽出で衰弱していく。それでも彼らが生きてこれたのは”兄弟”という縁の深さと、”互いを傷付けたくない”と願って出来る限りの対策を打ってきたからだ。
「声ひとつで意識なんて簡単に消えてしまう、研究員たちですら制御出来ずに怪我することも少なくなかった。知らない誰かの血に染まるのも、知ってる誰かの温もりを奪うのも、僕のせいなのに何も出来やしない……!」
「……」
「”管理人”だなんて名前は嘘だ、こんなもの正気じゃない、名前で正当化して破滅から目を逸らしたいだけの爆弾だ。こんなものを抱えたまま生きているオリジナルを正気だとは到底思えない。欠片でさえ嵐の中にいるような錯覚を覚えるのに、どうして」
「リアムさんの手が、暖かかったからだそうだ」
「っ……!?」
思わず俺も息を呑んでしまった。そんな発言、アランからは一度だって聞いたことも……いや違う、そもそも俺達はずっと、管理人についてちゃんと本人の口から説明されたことはなかった。
「闇の中でも、全ての感覚がなくなっても、重戦闘区域の人達なら止めてくれる、護ってくれる。だからアランさんは、他の誰かが管理人を入れられないように、自分で管理人という因果を終わらせられるように。狂気を孕んだまま正気のように振舞うことを、強者であることを伏せ弱者であるかのように認められることを。アランさんは苦痛を苦痛のままにして、進むことを選んだ」
淡々と紡がれる言葉に鈍い痛みを覚えたのは一体どっちだったのか。皇本人は気付くはずもないけれど、俺達すら知らなかったアランの心情を開示されるのは、なんというかもやもやするな。
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