第六話 交わすものが何であれ・前編
俺が手合わせを提案したのは単純に返す言葉を持たなかったからなのだが、多分青藍さんとスミレは何か別の作戦があったんじゃないか、と密かに思っている。もしあるのなら口を出してくれても良かったんだが、ものの見事に手合わせの準備だけが整えられてしまった、無念。
「最初にも言ったけど、これはあくまで手合わせ。俺の特性はアランさんの許可が必要だし、今回は使おうとも思ってない」
「分かりました」
頷いた夏音が取り出したのは、やはりというかなんというか。アランさんが持ち出していたようなとても長い黒剣。アランさんが使っているものよりは流石に短いだろうか、まともに対峙した回数が少ないため判別はつかない。
鋭く息を吐いて、そして一気に距離を詰める。手加減とか配慮とか、生憎そういう思考は頭にない。俺が出来るのは全力で戦うことだけだ。
「っ!」
身体の大きさが違う、身のこなし方も違う。最初からアランさんと同じだけの動きをするとは思っていないが、そこから更に目の前の存在へと情報を整理、調整して最適な動きを模索する。
自分より小さい相手への最適な動きを、自分よりもリーチの長い相手への効率的な距離の詰め方を。思考が目まぐるしく検証と修正を繰り返す、気付いた時には本能が理性を追い越していた。
「、ぁ」
咄嗟に距離を取って神経を落ち着ける。少しだが引きずられた感覚があった、これが実戦ならば取り返しのつかない失態になりかねない。
「……どうしました、か?」
なるほどわざとか。故意にこちらの精神を引きずった、裏を返せば技量としてはまだ未熟。管理人としての権能を殺してほしい、その願いの成就の為に引きずったのなら、もっと強く引かないとこうして踏みとどまってしまう。
「…………」
管理人は同存在。それを踏まえた上で特性の使用許可について思いを馳せる。委ねることに疑問はなかったが、引き戻すその方法についてはずっと疑問があった。その答えが、今目の前に提示されている気がする。
「……管理人は、特性に干渉出来る?」
「……さぁ?」
返答の濁しは実質的な肯定と取るぞ。否定しないのはほぼ肯定と取っていい、だが肯定もしなかったのは警戒を恐れたからか。まだ熟練度が甘く、確実に引き出すためには油断が必要とか、そういう可能性もないわけじゃない。
「……惜しいな」
思わず零れた言葉に俺も夏音も驚いて固まった。惜しい、そこに込められた言葉の真意を汲み取ることは俺だって難しい。……あぁでも。
「――――うん。やっぱり惜しい」
『一歩違えば、愉しく生きられたのにね』
「ここで違えたら、お前は苦しいままだ」
「っ……!」
大きく見開かれた瞳から、ぽたりと雫が落ちたのがはっきりと見えた。
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