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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第一章 進むために、見つけるために
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第一話 過去を抉る

「おはようございます。皇さん、スミレさん、イデアさん」

「おはようございます」

 俺が挨拶すればイデアはピンと耳……?とおぼしき部分を立てた。スミレは相変わらず我関せずと言わんばかりに微睡んでいる。

「本日から任務に同行してもらおうと思いますが……スミレさんの行動範囲はどうなりましたか?」

「一応、ワカバさんから許可は出てます」

「成程。なら大丈夫でしょうね」

 重戦闘区域に来てから最初の数日間はとにかく遣霊の行動範囲を広げる訓練にあてられた。アランさんはやはり忙しいのか殆ど顔をみることはなく、その代わりルコンさんとワカバさんは付きっきりで訓練に付き合ってくれていた。リアムさんを見かけることも殆どなかったが、遣霊であるうぱーは結構な頻度で見かけている。あれだけ自由に動き回る遣霊というのは珍しいんだろうか、みうも最初こそ離れていたが、それ以降は大抵アランさんから離れていなかったぞ。


「重戦闘区域は職員の数が少ないので殆どの場合単独での任務となります。とはいえ、軽・中の戦闘区域よりも任務の数が少ないかといえばそういうわけではなく……重戦闘区域における戦闘員というのは、実のところ職員と妖怪と呼ばれる存在なのです」

「で、その職員じゃない方……妖怪の一人が、俺ってこと」

 今日は俺だけ、と言われて連れていかれた任務予定地には先客がいた。シンと名乗る長身の相手は不自然なマフラーを……蠢いてるなあれ、イデアの同類なんだろうか。

「初めまして皇……志葉くん?うぱーくんから話聞いてるよ」

「うぱーの言葉分かるんですか」

「ふふふ」

妖怪だから遣霊の言ってることも分かるんだろうか。ワカバさんはなにやらスミレと通じ合っている素振りがあったが。ルコンさんはうぱーの言葉を理解しているようでいて唐突に『うん、わっかんねーや!』と言っていたので個人差もあるのかもしれない。

「今日の任務は数が多い上に動きが素早いので……特性(アビリティ)として広範囲を殲滅出来るシンに同伴してもらっています」

「範囲外に出る奴を潰すだけだけどね。普通に展開したら全部更地になるから」

 事前に範囲を見せてもらったが小さな村ひとつ分くらいはなかっただろうか。あの規模を更地にする特性は恐らく相当珍しい。範囲と威力は反比例するというのが通例だが、人間の常識を妖怪に当てはめるのは野暮だろう。

「俺志葉くんと一緒に行動するよ。粗方倒したら合流ってことでどう?」

「……相手は新人だということを忘れないでくださいね」

「だぁいじょうぶ大丈夫。俺青藍より手加減上手いからさ」

「皇さん、身の危険を感じたらすぐに離脱してください。予想の五倍は調節しませんので」

「はぁ……」

そんなにか。


 切り裂いた怪異はそのまま霧散する。体を捻って距離を測り、相手が離脱する前に接近して仕留める。環境を把握して、思考を止めずに情報を入手し続ける。強くなりたいならば学び続けろと、学習するために理性で動けと師匠に言われている。

 一応外に出さないように、出来る限り即討伐を心掛けているおかげでシンさんは暇なんだろう。じっと俺の戦闘を見ていたが、少し息を吐いたタイミングで話しかけてきた。

「……ねぇ皇くん」

「?はい」

「君どこ出身?一般区画にしてはやけに戦い慣れてるし……かといって、家柄が特殊って訳でもなさそうだし」

「俺自身は多分……孤児だと師匠が言ってました。師匠が各地を転々とする放浪人だったので、戦術に関しては師匠から」

「ふぅん……皇姓の師匠、ね……。じゃあアカデミーにも通ってないカンジ?」

「はい」

一般的にはアカデミーという場所である程度の戦闘訓練を受けるものだということは知っている。とはいえ、アカデミーに入学するためにはそれなりの身分と金銭が必要らしいが。俺のように身分が曖昧であったりする人間は一般枠の募集で入るしかない。職員は長続きしないらしく、不採用になることは殆どない。

「じゃあ軽戦闘区域に行かなくてよかったかもね。多分君、あそこに行ったら潰されてた」

「……」

 一切の冗談がなかった。多分、と濁しているが氷のように静かな瞳は確信を告げている。ふふ、と鈴を転がすような柔らかさで笑うのに、仕草も表情も笑みはない。

「惜しいかなぁ、うん、惜しい。一歩違えば愉しく生きられたのにね」

「――――」

ぐらぐらと思考が揺らぐ。一歩、たった一歩違ったなら。踏み出さなかったら?手を伸ばせたら?……俺が、もっと強かったら?


『  』

『一緒に生きよう』

『俺が、お前を』


「――――――――それでも。俺は選んだから」

「……そう」

 思考を振り切る。なんだか無性にスミレが恋しかった。四六時中寝てるような存在でも俺にとってはたった一人の遣霊、無意識に心の平穏だと思ってるのかもしれない。

 シンさんはそれ以上話題を広げることはなかった。俺も出来るだけ怪異の掃討に意識を割いていたからか予想よりも早く終わり、アランさんと合流する。

「……シン」

「ちょっとお話しただけだよ?リアムの部下だもんちゃんと面接しなきゃ」

「それはそうですけど……それで?」

「この子、アランの部下の方が良いね」

「えっ」

シンさんの口から出た予想外の発言に俺もアランさんも固まった。シンさんだけがニコニコと言葉を続ける。

「こればっかりは青藍も同意すると思うよ。だってこの子、放っておいたら潰れちゃうし」

「……」

「お前も気付いてるんじゃない?」

「…………少し、考えさせてください」

「俺は構わないよ」

 ……どういうことだろう。

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