第一話 記憶の隣人
「ユきー、わーあ。らぃマ」
「お、大分言えてるじゃん」
「スゴイゾー」
「進歩だー」
小さな指でふんふんと指さし確認しているのはつい先日保護された子供。そんな相手に対して保護者のような反応を見せているのは雪代さん達である。基本的にあの人達は自分達の後輩に甘い傾向があるが、いつにも増して甘いように見えるのは多分間違いではないだろう。
「雪代さん」
「お、リアム。様子を見に来た?」
「はい。アランや青藍さんはまだ許可が下りていませんし」
「まぁそうだわな。見ての通り、大分喋れるようになったぜ?」
「ぜ」
「ゼー」
「ぜー」
私は保護された直後をあまり知らないが、話によれば発する言語全てが意味を持たない、あるいは聞き取れない言語だったと聞いている。それは所謂実験の弊害で……状況を把握した雪代さんや藍沢先生が爆速で治療に当たっていたのは記憶に新しい。
「ダぇ?」
「コイツ?コイツはリアム。この重戦闘区域の職員の一人で、お前の兄貴のそっくりさんの弟」
「ややこしくないですかその説明」
「いやでも事実だし……」
雪代さんの説明に案の定理解が追い付かず首を傾げる子供。他の説明方法はなかったんだろうか。もうちょっと分かりやすい関係性があるような、ないような。
「カノンタチモヨブカ?」
「そろそろ検査終わって来るよ?」
「ああ、じゃあ少し待ちます」
「???」
「……私はリアム、君達兄弟を保護している者の一人だ」
「……トぉ、ン」
「冬音くんだよ、冬に音って書いて、とおん」
「成程、冬音……」
青藍さんによく似た気配で、冬の名を冠するのは少し意外な気がしたが、そもそも相手がそんなことを気にするとは思えないので、偶然なんだろう。青藍さん曰くアランと例の子供はそこまで似ていないらしいが、青藍さんと冬音は割と似ている気がする。気配以外にも、顔立ちとか。
「あ、帰ってきた」
「オカエリー」
「おかえりー」
「はーいただいまー……あれっ、リアムも来てたの?」
「はい」
三人の子供達と共に部屋に入ってきたシンさんに挨拶をする。……ああ確かに、兄さんによく似た気配の子供が一人いる。髪の色も、顔立ちも似ていないというのも分かるような気はするな。……何も知らずにあったら敵対してしまうのも分かる気はする。あの気配は、どうしたって強すぎる。
「あ、紹介するね。彼はリアム。重戦闘区域の職員だよ」
「夏音、です……この子達は春音と秋音。僕が長男で、次男が春音、三男が秋音で冬音が末っ子です」
「こんにちは……」
「……こんにちは」
長男である夏音の後ろから顔を覗かせる三男と、そんな三男を庇うように警戒している次男。……警戒心が高いのは何よりだが、少し分かりやすすぎやしないだろうか。夏音の方が警戒を出来るだけ表に出さないようにしているから余計に。
「シンさんどうだった?」
「んーっとね、一応回復自体は順調みたい。どっちかっていうと他人との交流が少なすぎるからそろそろ……ね?他の人達とも触れ合ってみようかなーって言われてたよ」
「おーじゃあ丁度いいじゃん」
丁度いい……のだろうか、明らかに警戒されているが。というか人に慣らすにしてももう少し順序というか、せめて布袋さん辺りから慣らした方が良い気がするのだが。
「てことでリアム、明日入江くん達も連れてこよっか」
……正気か?
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