第三十二話 ひとりじゃないよ
『外羽華蓮を穏便に移籍するにあたって、研究部門へは件の結晶を譲渡してほしい。華蓮を連れ出した後、少し経てば縮小して持ち運べるようになるはずだ。華蓮が懸念していた子供達に関しては、連れ出せるだけの安定が得られてからまた連絡しようと思う。少なくともこれ以上の被害は出させないと約束する。そして、研究部門には結晶を渡した段階である程度詮索は止むと思うが……万が一のことを考えて、情報筋にいくつか情報を流しておいた。多少は騒がしくなると思うが、寧ろ利用してほしい』
淡々と紡がれる言葉を全員で聞く。腕の中で大人しくしてるなと思ったらスミレは寝ていた。
「……一応確認しますが、この録音を預かったのは……今回の騒動の前、ですよね?」
「はい」
「私もいました」
「結晶の話も出ていることから、今回の犯人ではないのかと思われるが……」
「ここまで情報把握されててヒュリスティック的には?」
「大問題ですね」
さらりと言い切ったアランさんとリアムさんが揃って顔を見合わせる。流石に問題だとは分かっていても現状使えるものは使った方が良いという判断なのか、あまり焦っている様子は見られなかった。
「青藍にも情報を共有します」
「情報関連なら雪代さんにも話しておくべきか……」
「布袋……というよりは布袋経由で情報を把握する。アイツに任せておけばそう手遅れにはならないだろ」
信頼されてるな布袋さん……。ある程度の方向性が決まったからか、それとも単純に暇になったのか、ごろごろと転がっていたイデアがとあに捕まって振り回されている。
「声の主については少し調べようと思いますので……イデアを借りても?」
「あ、はい。大丈夫です」
「とあー!」
「そうですね、東雲さん、ついて来てくれますか?」
「あ、はい!」
それぞれやることを把握したからか、にわかに騒がしくなる室内。俺はイデアもいないし保護された子供達の様子を見に行こうか……とぼんやり考えていれば、微かな声が聞こえた。
「?」
「あっ」
「……ここ、は……?」
「っ華蓮!」
「なんな!」
まだ少し微睡んでいるような声で、外羽華蓮……外羽は目覚める。勢いよく華蓮へと声を掛けた入江とレンが、感極まったように笑みを見せた。
「綾華……?あれ、これ夢……?」
「夢じゃない、夢じゃないんだよ……!」
「……えっ」
「なんなな!」
慌てて起き上がろうとした外羽だが、眩暈を起こしたのかべしゃりとベッドに戻る。騒がしさに目が覚めたのか、スミレがもしゃもしゃと俺の腕を揉んでいた。
「どういう……?」
「詳しいことは後で話す。……今は、再会出来たことに喜んどけ」
「んなん!」
目覚めたばかりで混乱も強いだろうに、藍沢先生からの言葉を聞いて外羽は入江の頭に手を伸ばす。ゆっくりと、確かめるような手を握り、頬を摺り寄せる入江。
「……おっきくなったね、綾華」
「もう、十五年近いんだよ、華蓮」
「それもそっか」
入江に手を伸ばし、抱き起してもらった外羽は肩に頭を乗せて微笑む。入江に見えない位置で、気付かれないように葛藤を飲み下す。
「……外羽華蓮さん。大丈夫ですよ」
ふ、と微笑んだのはアランさんだけじゃなかった。アランさんとリアムさん、揃って笑みを浮かべ、相手を納得させるような自信を纏う。
「例え何があっても、俺達は貴方達の味方です」
「ああ。だからどうか、黙っていなくなることは止してほしい」
「なん」
レンの相槌につられるように俺と東雲、大雅もこくりと頷きを返す。沢山の味方に少しだけ面食らったのか、外羽は少しだけ目を見開いてから、ほんの少し、爪の先程度の涙を零して微笑んだ。
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