第三十話 目が覚めるような
「……疲れた」
「お疲れ」
「み」
ぽす、とベッドに突っ伏した兄さんに寄り添うみう。朝早くから研究部門で聞き取り調査、というのは流石の兄さんでも堪えたらしい。みうを預けて慌ただしく研究部門に向かう時点で大分疲労が見えた。
「例の結晶に関しては青藍に一任して……志葉さんが戻ってくるのはもう少し後だと聞いているから少し休む……」
「ああ」
「みゅ、みー」
せっせと毛布を掛けて寝かしつけようとするみうと、休息はとれど眠りたくはないのか何やらもぞもぞ、もごもごと抵抗する兄さん。兄さんには悪いが多分無駄な足掻きだろう……もしゃもしゃとシーツを泳ぐ手を取ってマッサージでもするように触れ合えば、喉の奥から絞り出すような音が聞えた後、大人しくなった。
「みゅ」
「そうだな。少し寝かせておこうか」
「みー」
俺の言葉にふにゃふにゃと笑みを浮かべるみう。口数は少ないが、うぱーと同じくらいには考えていることが分かりやすい。兄さんは否定するだろうけど、少なくともこの二人は割と似ている。
口数よりも表情や反応で感情を伝えるところとか、興味のある事柄には無言で視線を注ぎ続けるところとか。実は強情で、目的達成の為ならノータイムで自分すらも天秤に上げることが出来るところとか。
時折思い出したかのようにもぞもぞと動こうとする兄さんを二人で宥めながら、穏やかな時間を享受する。研究部門に関係する騒動となると俺が関われる管轄ではないし、下手に動いて目をつけられるのもよろしくない。
「すみませんリアムさん、少し良いですか?」
「大雅か、良いぞ」
控えめなノックと共に入室してきた大雅は、ちらりと兄さんとみうを見てから声のトーンを落とす。
「実は、結晶の材質を調べるために青藍さんが入江さんと共に調査したようなんですが……結晶の中に、人がいたようでして」
「人?」
「はい。しかも……その方が、外羽華蓮さんだったんです」
外羽華蓮。……確か、本来の保護対象だった相手の筈だ。青藍さんが言葉を交わし、何らかの理由を経て連れて帰ることを諦めた相手。いよいよもって研究部門の自作自演という説はなくなった、彼の存在を手放すくらいならどれだけの被害を出してでも自分達だけで解決しようとするのが目に見えている。
「今は?」
「未だ藍沢先生が戻ってきていないので、一先ず宇月さんのところです。入江さんは動揺していましたが、外羽さんに寄り添う形で共に医務室へ」
「分かった。すぐに向かう」
「話は聞きました」
先程までの眠そうな気配は何処へやら。むくりと起き上がった兄さんが澄ました表情でみうを抱え上げる。もう眠気は消え去ったらしい、こうなると止めようがないので特に何も言わずに扉を開けた。
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