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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第四章 あの日、伸ばせなかった手を
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第二十九話 夢じゃなかった

「――、なーん!」

「ん……」

 ぺちぺちと小さな手が何度も頬に触れる感覚に意識が浮上する。促されるまま目を開けて、何とはなしに掌を見つめた。

「……やけに、鮮明な夢だったな」

「なん?」

「優しい夢を見たみたい」

「んん?」

不思議そうに首を傾げるレンの頬をつつく。夢であることを疑いはしない、けれど、いやにはっきりと覚えていたから思わず口から言葉が零れただけだ。悪夢なんかよりずっとずっといい夢だったから、噛み締める様に夢を評価した。……そのはず、だったのだが。

「あ、入江さん」

「あれ東雲?それと……何でイデア?」

「なんな?」

 さも当然の様にとあくんに抱えられているイデアに思わず声を上げてしまった。本人が良く分からない反応を見せているのはもう今更なので反応しないが、スミレくんでも皇でもない相手に抱えられているのは意外である。自由に動き回っているイメージが強いけれど、あれでいてイデアはスミレくんの傍から離れることは早々ないので。

「実は……どうやら夜間に研究部門が襲撃を受けたようで」

「襲撃!?」

「はい。幸い、怪我人はいないようなんですけど……謎の結晶……?が、残されていたみたいで、イデアが食べないようにと待機している私が預かりました」

成程、謎の物体をイデアが捕食しないように監視……ある意味説得力のある理由だった。イデアが悪食なのは今に始まった話ではないし、東雲は研究部門に連れていけないだろうから待機を命じられるのも納得である。

「あ、入江おはよー」

「おはようございます青藍さん」

「なんなな!」

 その後、食事を済ませて一度リアムさんのところに行こうかと廊下を歩いていたら青藍さんに声を掛けられた。どうしたんだろうかという疑問を口に出す前にあれよあれよとどこかへ連れ出され、気が付いた時には例の結晶の前だった。

「あの、俺が研究部門に行くのは不味いのでは……?」

「もうこれ隔離済みだから大丈夫」

すまし顔でそう言われたので一旦困惑は頭から追い出す。……見る限り不透明な結晶だ、目を凝らせばぼんやりと背後が透けるような気もするが、中心に向かって色が濃くなっていくので中身があっても分からないだろう。

「お前から見て、これどう見える?というか、これ何?」

「ちょっと待ってくださいね……」

 世界視を起動してじっと目を凝らす……瞬間、情報の洪水に触れかけて勢いよく存在を除外した。

「っ!?」

「だんな!?」

「え、大丈夫?」

「ええと……はい。でもこの結晶……高密度の情報を有してますよ」

「情報……」

正直まともに確認していれば多分脳がショートしてもおかしくなかった。俺の発言に青藍さんは少しだけ考え込むような仕草を見せてから、実は、と言葉を口にする。

「俺達が回収する前に、これに触れた研究部門の職員が全員気絶したんだよね」

「気絶……?」

「うん。だからそういう……一種の術式とか毒とか呪いとか、そういうのを纏っているんじゃないかって思ったんだけど。……もしかしたらコレ、触れた相手に共有するのかも」

「んなん」

 あれだけの情報を一気に共有させられたら、確かに気絶してもおかしくはない。下手すると毒や呪いよりも厄介な代物だ、情報は脅威として判定がないためあらゆる探知に引っ掛からないので。

「どうしてこんなものが……?」

「そこなんだよね。アランが今聞き取り調査してて、皇が藍沢先生の方で……一種の潜入してるんだけど、自分達で生成したんなら流石に触らないと思うじゃん」

「襲撃時に生成されていたとしても、理由が分かりませんね……」

改めて結晶を見やる。全体的に大きくて、一種のオブジェのようだ。触れないように気をつけながら周囲を見るために回り込んでみれば――――世界視が反応した。

「あれ?」

「ん?」

「なん?」

 結晶は情報過多なので情報を省いている。なのにとある一角だけ、シンプルに”結晶”と書かれたエリアがあった。少し考え込んでからそっと手を伸ばす。

「あっ入江!?」

「だん!?……な?」

「青藍さん、この一角だけ……材質が違います」

俺がそういえば、青藍さんは思わずといった風に口を閉ざす。軽くノックをするように結晶を叩いてみれば、微かに反響しているのが分かった。

「空洞……」

 謎の結晶にある、謎の空洞。……レンにはしっかり隠れてもらうように頼んでから、俺と青藍さんは慎重に結晶を壊す。


『……目が覚めたら』


 ふと、夢の言葉を思い出した。カシャン、という軽い音と共に結晶の一部が剥がれ落ちる。他の結晶に触れないようにしながら欠片を取り除いていけば、人がひとり入れそうなほどの空間が空いた。

「……これは」

くらりと、眩暈がするような錯覚を得る。思わずといった風に伸ばした手は、空を切らずにその頬に触れた。吐き出し過ぎた肺が酸素を求めて、それでも喉は空気を震わせようと息を吐く。


「っ、か、れん……!」


 夢の先が、回り出した。


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