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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第四章 あの日、伸ばせなかった手を
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第二十八話 幻想、君が望む現状

 トントン、と控えめなノック音がして意識が浮上する。まだ夢うつつのまま扉を開けた。ひょいと抱え上げられてぽふぽふと背中を叩かれる。起こしたのにまた寝かしつけるかのような穏やかさにぐずぐずとかぶりを振った。

「行きましょう」

 優しくて、穏やかな声だ。どこかで聞いたような声に誰だろうと顔を上げるけれど、くすくすと微笑まれてちゃんと確認出来なかった。

 無機質な廊下とスタスタと歩いていく。俺を抱える人と、その少し先を歩く人。どこに行くんだろうと様子を伺うけれど、程よい暖かさと振動で意識がふわふわと揺蕩っている。

「ふむ」

 曖昧な意識の中にするりと入り込む声。くっつきそうなまぶたをこじ開けた先に綺麗なひとがいた。吸い込まれそうなアメジストの瞳がゆるりと細められる。

「強い光だな。強くて、とても綺麗な光だ」

「?」

「少し懐かしさを感じただけだ」

 興味なさそうに視線を逸らすもう一人。花のような鮮やかさの紫色は、アメジストのひとと並ぶとまるで兄弟のように見える。兄弟というよりは……親戚の距離感、だろうか。

「あまり派手にはやるなよ」

「……」

「手段は問わないから」

アメジストのひとにそんなことを言われながら前に出た花の人の影がどろりと揺れる。するすると隆起し、大きな生き物のような姿をとった黒い何かは、花の人に音もなく寄り添った。

「……、オーダー:殲滅」

 黒い塊が跳ねる様に地面を蹴る。気が付けば怖くて白い影がいくつもいくつも周囲に立っていて、黒い塊はその白い影を吹き飛ばし、ときに飲み込んで数を減らしていく。花の人は黒い塊に紛れる様にふわりふわりと動き回って、小さなナイフで白い影を倒していた。

「わ……!」

まるで映像を見てるみたいな光景だ。びっくりして思わず手を伸ばせば、危ないからと手を繋がれてしまったけれど。アメジストのひとはそんなやりとりを見て笑っていた。

「……目が覚めたら、探しにおいで」

 ぽす、と頭を撫でられる。何を言っているんだろうと思考が回る前に、優しい手が俺の意識を曖昧に溶かそうと温もりを何度も与えて来る。まだ眠る訳にはいかないのに、暖かさに意識がとろとろと溶かされていく。

「?」

無駄とは知りつつも必死に眠らないように足掻いていれば、気になったのか花の人が何だ何だと近付いてきた。ついついと指先が頬を揺らし、少したわんだブランケットを掛け直される。……不味い、本格的に心地よい温度になってきた、必死の抵抗もどんどん小さくなっていく。

「……おやす、み」

「そうだな、おやすみ」

「おやすみなさい」

 三人に促されるまま、世界はゆっくりと閉じていった。




「……志葉に、よろしく」

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