第二十五話 今はまだ、待っていて
何か凄く固いものに当たった気がするけど適当に足場にして更に加速する。わざわざ目立つように立ち回ってるのに捕まるとかあまりにもダサい。だから多少は本気を出さないと。
小さいから小回りが利く、所属が研究部門だから立ち回りに慣れがある。……その程度で押し負けるほど弱くはない。実戦経験でいえば間違いなく俺の方が多いだろうし、何よりその能力を使いこなすのも対処するのも、俺の方が上手の筈だ。
「……ホント、ムカつく」
多分本人の意思じゃない。それくらい分かってる。だからといってはいそうですかと納得するには惨たらしい所業だと思うよ。……やっぱ人体実験はクソ。
ベースは多分、アラン・アンシエント。元を辿れば配合レシピも基礎データもあるだろうから複製も可能だろう、それは分かる。そこに上乗せられているのは三つ。そのうちの一つに俺の気配も混じっている。どうやったんだろうな、生体データが一部でも存在してたことに驚いてるよ今。
「防御装置を起動しろ!」
「先に薬品の避難を!データが吹っ飛ぶぞ!」
「”管理人”に指示を出せ!」
……流石にアランまで出てこられたらちょっと制御とか無理だから早めに切り上げないと不味いな。これだけ暴れればやることも済んでるだろうし……やることを整理してから動きを変える。
「っ不味い!研究室の方に……!」
「早く防御装置を!」
妨害が為される前に子供を蹴り飛ばして更に巻き込まれるように衝撃を撒き散らす。そのまま子供ごと回収、壁は……どうせ勝手に直るから気にしない。
「……取り敢えず、こんだけやれば良いでしょ」
「み……」
やりすぎみたいな視線がビシバシ刺さってるけど気にしない。いやだって派手にやった方がいいって言われたからさぁ……俺の正体がばれない程度に、アランの介入がない程度に暴れるとなると多少手荒になっちゃうよ。
「お疲れ様です!」
「ん、そっちも……どうにかなったみたいんだね」
最近の俺みたいに両腕と頭に子供を乗せてノエルは頷く。端から見ると確かにシュールだな、あと分かってたけど俺の面影があるの普通に嫌。
「……これでもお前は戻るの?」
「はい。……まだ、やるべきことがあるので」
こういう奴の強情さはよく知ってる。外羽が俺にお礼を言ってから元の場所へ帰るのを、何とも言えない表情で見送った。
「……綾華に会わせる顔がないんだぞ……」
「正直気まずい」
「てん」
やっと再会出来ると思ってただろうになぁ、自分の参戦は認められない上に本人が自らの意思でついてこなかったって知ったらもう全部投げ出して助けに行きそうで困る。過不足のない説明しないとね、……アランが出来るとは思ってないけど。
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