第二十四話 ”管理人”
「彼はとても優秀でね。ヒュリスティックにいる職員、事務員全てを把握しており所属違いや擬態型などを判別し、自動防衛してくれる機能まであるんですよ」
「……へぇ、それは素晴らしい」
……なんだか、人間の紹介というよりはアンドロイドとかそういう機材に向ける言葉のような気がするな。アランさんは依然として此方を一瞥もしない。勿論反応してしまう方が困るのは事実なのだけれど。
「意外ですね。研究部門はあまり実働部門と仲がよろしくないと耳に挟んでいたので」
「不仲とは心外ですな。彼は快く実験に協力してくれていますよ。仮にそんな噂が流れているとしたら……そうですね、自らの失態を認めたくない重戦闘区域の連中でしょう」
自らの失態。アランさんが研究部門と協力することが、失態?いまいち理由を察せない、仲が良いという発言が言葉通りの意味ではないことだけは分かるが。
「それはそれは……嫉妬とは、恐ろしいものですな」
「ええ。本当に」
和やかな会話に見えるが眼鏡の先輩の目は笑っていないし先輩の気配はずっと困惑しっぱなしである。入江へ頼んでいた管理人を止めることや、現在のアランさんを紹介した時の内容で恐らく……”管理人”という権能自体は研究部門が関与しているのではないかという疑いはあるが、そこから失態の内容が分かるかと聞かれれば話は別だ。
研究部門の先輩が促してアランさんが一歩前に出る。……事前に入江に管理人としての自我を止めてもらっているおかげで助かった、俺を見る目は無機質だったけれど、それ以上の反応はなくそのまま目を逸らされる。同じように集められたのであろう東雲も指摘されることなくスルーされた。
「ふむ、入れ替わりでないということは……」
「正真正銘、本当に侵入者がいるということになりますね」
「ええ。嘆かわしいことです」
心なしか大げさに肩を竦めた研究部門の先輩が扉を開けた瞬間……横から勢いよく質量が飛んでくる。
「!?」
哀れ扉を開けた先輩は勢いに負け気を失い、流石に不味いかと思って前に出ようとした俺は質量の正体に気付いて動きが止まる。藍沢先生は黙って空を仰いでいた。
ひらりと青い羽織が舞う。重力を感じさせない動きで高速移動をする相手は良く見知った顔。対する相手は小柄で知らない相手の筈……なのだが。
「……?」
何故か、何かが思考を過る。ちらりとアランさんに視線を向けても、特に反応は見せていなかったけど。……それでも何故か、アランさんの反応が気になった。
「ええと……」
さっきまでは飄々とした態度で研究部門の先輩と渡り合っていた眼鏡の先輩も困惑を隠しきれず、研究部門の先輩方は慌ただしく侵入者の対応に追われている。下手に参戦することも出来ず、かといって巻き込まれたいわけでもない俺達はどうしようかと顔を見合わせた。
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