第二十三話 知らぬふりして
急に耳をつんざくような警報が響いて思わず肩が跳ねた。藍沢先生がちらりと天井を見てから検診中の職員へ内容を問う。機密情報も多い研究部門では登録されている人材……職員以外が確認された場合こうして警報が鳴る、と。……ノエルさんの侵入がばれたんだろうか、なんらかの問題が発生していることだけは確かだと思うけれど。
「不穏ですね」
「ああ。最近は怪異の侵入も多いからな」
あくまでも無関係だと言わんばかりに世間話の体で話を振る。俺達が出来ることはあまりない、あくまでも俺達は攪乱……俺達はどんな騒動にも無関係であると思ってもらわなければ困る。
「藍沢先生、少し……」
「何だ」
静かに寄ってきた研究職員が藍沢先生の耳元で何かを囁く。少し沈黙を返した藍沢先生は、ややあってから俺を促してどこかへと足を運び始めた。
「おや大音量。何か不具合が?」
「侵入者でしょうねぇ。なにやらこそこそと余所の部門が嗅ぎまわっている様子。全く忌々しいものですよ」
「他部門ですら侵入者扱いで?随分と頑丈なセキュリティだ」
「まさか!ちゃんと正規の手段でアポイントメントを取った相手を侵入者扱いはしませんよ。ただ……どうもネズミ紛いの手段で情報を抜こうとする輩が後を絶ちませんのでね。ともすれば身内ですら油断ならないというのだから儘なりませんな」
……つまりノエルさんがばれたということなんだろうか。眼鏡をかけた先輩と研究部門の先輩の会話を聞きながらそう結論づける。俺と東雲は部門に関して偽ってはいるけれど、警報が鳴ったタイミングがあまりにも中途半端すぎる。
「警報が鳴った以上、信頼を担保するためにも少し協力してくれませんかな?」
「協力ですか?」
「ええ。なに、本人確認するだけですよ。警報が鳴ったら研究部門にいる全職員が必ず受けるので」
「成程……具体的にはどのように?入口に戻るのですか?」
「いいえ。優秀な判別者がいるのでね」
ノック二回、研究部門の先輩が許可を出す。事前に眼鏡をかけてる先輩から喋らないようにと言われていた俺と先輩もまた視線を向けて、息を呑んだ。
「……!?」
「……重戦闘区域の職員、に見えますが」
「ええ。そうですよ。優秀でしょう?」
先輩が表情にも言葉にも出さず、気配だけでどんちゃん騒ぎしてるのが伝わってくる。眼鏡の先輩の方は平静を装っているけどうっすら困惑が見えるし……正直、俺も今ここでアランさんが出て来る理由が分からなくて困惑しっぱなしだ。
姿も、気配もアランさん……だと思う。違いがあるとすれば目の色が若干黄色……?金色に見えるくらいだろうか。……研究部門の先輩の発言から察するに本人だとは思うのだけれど…………もしかして、入江に頼んでいた内容はこの事態を予想していたからなんだろうか。
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